I 事前照会の趣旨及び事前照会に係る取引等の事実関係

1 事実関係

医療法人である当社は、当社と出資関係のない医療法人Z社との間で、当社を合併法人、Z社を被合併法人とする吸収合併(以下「本件合併」といいます。)を行うことを予定しています。
 本件合併に際し、被合併法人の従業者の雇用関係については、以下のとおりとすることとしています。

(1) 本件合併の日の前日における従業者の総数は81名ですが、当該従業者全員は、同日付けで、被合併法人との間の雇用契約を終了(退職)するとともに、被合併法人から退職金の支払いを受けます。

(2) 被合併法人の従業者であった81名のうち79名は、本件合併の日において、合併法人との間に新たな雇用契約を締結し、同日から合併法人の従業者として合併法人の業務に従事します。

2 照会要旨

本件合併は、本件合併の直前において合併法人と被合併法人との間に出資関係がないことから、本件合併が法人税法第2条第12号の8に規定する適格合併に該当するためには、本件合併が同号ハの「被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併」に該当する必要があり、この要件の一つである、いわゆる従業者引継要件(法令4の34三)を満たす必要があります。
 本件合併においては、合併の日の前日に被合併法人の全従業者は、被合併法人との間で締結された雇用契約を終了(退職)し、当該雇用契約は合併法人に承継されないことから、合併法人は被合併法人の従業者を引き継いでおらず、従業者引継要件を満たしていないとも考えられます。
 しかしながら、本件合併後においては、本件合併の前日まで被合併法人の業務に従事していた被合併法人の従業者の総数の80%以上が合併法人の業務に従事することが見込まれていることから、本件合併は従業者引継要件を満たすと考えてよいでしょうか。

II 照会者の求める見解の内容及びその理由

1 関係法令

(1) 適格合併について

法人税法上、次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないものは適格合併に該当します(法法2十二の八)。

イ その合併に係る被合併法人と合併法人との間に完全支配関係がある場合の当該合併(法法2十二の八イ、法令4の32)。

ロ その合併に係る被合併法人と合併法人との間に支配関係がある場合の当該合併のうち、所定の要件を満たすもの(法法2十二の八ロ、法令4の33)。

ハ その合併に係る被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併として法人税法施行令第4条の3第4項に掲げる要件(以下「共同事業要件」といいます。)の全てに該当するもの(法法2十二の八ハ、法令4の34)。

(2) いわゆる「従業者引継要件」について

上記(1)ロの所定の要件及び共同事業要件の一つに、いわゆる「従業者引継要件」が規定されています。具体的には、合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていることを、その要件としています(法法2十二の八ロ(1)、法令4の34三)。
 なお、ここにいう「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、合併の直前において被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者をいうこととしています(法基通1-4-4)。

2 当てはめ

被合併法人であるZ社と合併法人である当社との間には出資関係がないことから、本件合併が適格合併に該当するためには、共同事業要件を満たす必要があり、この共同事業要件の1つである従業者引継要件を満たす必要があります。
 吸収合併が行われた場合、その合併により消滅する法人(被合併法人)の権利義務の全部は合併後存続する法人(合併法人)に承継され(医療法58)、当該合併に際し特段の合意がない限り、被合併法人の従業者の地位も合併法人に承継されます。
 一方で、従業者引継要件においては、「合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること」と規定していることから、当該被合併法人の従業者の地位、具体的には被合併法人の従業者の権利義務や当該被合併法人の従業者と被合併法人との間の雇用契約などが必ずしも合併法人に承継されることまでをその要件とはしていないものと考えられます。また、従業者引継要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、合併の直前において被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者とされており、その従業者がその合併の直前の従業者に該当するか否かを判断するに当たって、雇用契約があるかどうかといった雇用形態は関係がないものと考えられます。
 以上のことからすれば、被合併法人の従業者の雇用契約が合併法人に承継されるか否かということとは関係なく、被合併法人の合併の直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が合併後に合併法人の業務に従事することが見込まれているのであれば、従業者引継要件を満たすと考えられます。
 本照会では、本件合併の前日に被合併法人であるZ社とその従業者との間の雇用契約は終了(退職)するものの、本件合併後において、被合併法人の合併の直前の従業者全81名のうち79名が引き続き合併法人である当社の業務に従事することが見込まれていることから、従業者引継要件を満たすものと考えます。