(1)国際課税に係る調査体制

イ 国際課税を巡る環境

 経済取引の国際化の進展により、企業や個人の国境を越えた事業・投資活動が活発化しています。

  1. 1 我が国企業の海外進出の状況
     我が国企業の海外進出の状況は下図のとおりであり、海外の現地法人企業数は、平成7年度の10,416社から平成21年度には18,201社と約1.7倍に増加しており、特に中国に対する進出件数が急増しています。
    現地法人企業数の地域別推移のグラフ
  2. 2 外国法人数の推移
     我が国で事業活動等を行う外国法人数の推移は下図のとおりです。平成21事務年度においては5,800法人と前年に比べ114法人減少しました。その伸び率は鈍化しているものの、平成12事務年度に比べ約1.5倍になっています。
    外国法人数の推移のグラフ
  3. 3 国外送金等調書の提出枚数の推移
     多額の国外への送金が行われた場合に提出される国外送金等調書1の提出枚数は下図のとおりです。平成21事務年度は提出基準額が引き下げとなったこともあり、473万枚と前年に比べ132万枚増加しており、総じて、提出枚数は年々増加傾向にあります。

 注釈

  1. 1 国外送金等調書とは、国外への送金及び国外からの送金を受領した金額が200万円を超えるものについて、金融機関から税務署に提出される法定の報告書(平成21年4月から、国外送金等調書の提出基準は、200万円超から100万円超に引き下げとなっています。)です。
国外送金等調書の提出枚数の推移のグラフ

ロ 国際課税に係る取組

 企業や個人の国境を越えた事業・投資活動の活発化に伴い、国際課税事案の調査の重要性が高まっています。
 このため、海外取引を行っている納税者や海外資産を保有している納税者を重点的に調査し、国外送金等調書や租税条約などに基づく情報交換制度を効果的に活用するなどして、深度ある調査に取り組んでいます。
 また、国税庁では、国際課税を専担する国際税務専門官を増員するとともに、国際的租税回避事案に専門的に対応する部署を設置するなど、調査体制の充実・強化に取り組んできました。なお、職員の研修機関である税務大学校において、国際課税に関する法規や租税条約、金融取引、語学などの研修を実施し、職員の国際課税に係る調査能力の向上を図るとともに、複雑な課税問題に対処するために、弁護士や金融の専門家を採用しています。
国際課税に係る調査事績のグラフ

(2)国際的租税回避行為への対応

 海外で受け取った収入を隠す、利益を得ているにもかかわらず各国の税制や租税条約の違いを巧みに利用してどこの国にも税金を納めないといった国際的な租税回避が問題となっています。国際的租税回避には、金融や法律・税の専門家などが関与し、ペーパーカンパニーや組合、デリバティブ(金融派生商品)などを組み合わせた複雑な取引が使われる事案もあり、その全体像の解明を困難なものとしています。さらに、最近では、このような問題が、大企業だけではなく、中小企業や個人の富裕層にも広がってきています。
 こうした国際的租税回避行為により適正な納税義務を果たさないことは納税者の公平感を損なうものであり、税務当局としてその把握や実態の解明を行い、適正な納税義務の履行の確保に尽力していく必要があります。このため税務調査をはじめあらゆる機会を通じて国際的租税回避行為に関する情報の収集を行い、課税上問題があると認められる場合には、徹底した税務調査を行い実態の解明を行っています。
 さらに、このような国際的租税回避行為に対する対応を強化するため、情報の収集や分析、調査の企画・立案を専門に担当する部署として東京及び大阪国税局に統括国税実査官を設置しています。国際的租税回避行為に関する資料情報の収集や実態解明においては、統括国税実査官、国際調査課等が中心的役割を果たしています。
 また、国際的租税回避の解明を目的として日本・アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・韓国・中国が参加する国際タックスシェルター情報センター(JITSIC:Joint International Tax Shelter Information Centre)では、国際的な租税回避の仕組みやメンバー各国における取組などの情報の共有に努めています。

(3)移転価格税制への対応

 移転価格税制は、海外の関連企業との取引価格を操作することによる所得の海外移転を防止し、適正な国際課税の実現を図る観点から、昭和61年度税制改正で導入されたものです。具体的には、我が国企業が海外の関連企業と取引をするにあたって、その取引価格が第三者間の取引価格(これを「独立企業間価格」と呼んでいます。)と異なることにより、我が国企業の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたとみなして、所得を計算し直す制度です。
 企業活動の国際化の進展に伴い、移転価格税制の適用対象となる取引が増加するとともに、取引の内容も複雑化し、また無形資産を伴う取引の重要性が高まっています。こうした変化に的確に対応し、納税者の予測可能性を高め、適正・公平な課税を実現していく必要があります。

イ 運用の明確化・検討体制の充実

 納税者の予測可能性を高めていくためには、制度の運用に関する執行方針や適用基準を公表し明確化を図ることが重要です。平成22年においても、事務運営指針や法令解釈通達を改正し、調査において海外の関連企業との取引の価格が決定された過程などを検討する際に考慮すべき事項や、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類の検討に当たり留意する事項などについて明確化を図ったところです。
 また、適正・公平な執行を確保していくため、事実認定と法令の解釈・適用を的確に行うための審理体制の充実を図っています。

ロ 事前確認

 移転価格課税に係る事前確認は、我が国企業の申出に基づき海外の関連企業との取引の独立企業間価格の算定方法について税務当局が事前に確認するものです。事前確認の申出件数は、国際取引の増加を反映し増加しています。そのため国際取引を行う企業が集中する東京国税局と大阪国税局には、事前確認審査を専門に担当する部署を設置するなど執行の体制整備を図り、迅速な処理に努めています。また、事前確認の申出前に国税当局が相談を受ける事前相談の担当窓口を各国税局に設けることにより、納税者が事前確認を円滑に利用できる環境を整えています。
 事前確認は、納税者の予測可能性・法的安定性を確保し、移転価格税制の適正・円滑な執行に資するものであることから、今後とも適切に対応することとしています。

事前確認の申出件数及び処理件数の推移のグラフ

(4)租税条約などに基づく情報交換

 企業や個人が行う国際的な取引については、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できないことがあります。そのような場合には、二国間の租税条約などの規定に基づく情報交換を実施することにより、必要な情報を入手することが可能となります。
 国税庁では、最近では年間数十万件単位の情報交換を実施しています。
 なお、我が国においては、租税条約に国際基準1に則った情報交換規定を新たに設けたり、既存の規定を国際基準に則ったものに変更するなど、情報交換に関する枠組みの整備を図っています。現在、我が国では、48の租税条約(適用対象は59か国・地域)が発効していますが、今後、スイスとの条約改正により、すべての租税条約に情報交換規定が設けられることとなります。また、一部の国との間では、調査担当者が直接相手国の担当者に会い、必要な情報の交換を行うこともしています。国税庁としては、これらを十分に活用して、積極的に情報交換を実施していくこととしています。

 注釈

  1. 1 情報交換に関する国際基準の主な項目としては、金融機関が保有する情報についても情報交換を行うこと、自国に課税利益がない場合でも情報交換を行うこと、などがあげられます。
情報交換件数の推移のグラフ