酒税は、明治政府設立以降、地租とともに大きな財源となり、一時地租を抜き国税収入の中で首位となったこともありました。その後、所得税・法人税などの直接税のウエイトが高まり、平成20年度においては、租税収入などの合計に占める割合は3.2%(1兆4,614億円)となっています。しかし、景気の影響を受けにくく、安定した税収が見込まれることから、現在でも重要な役割を果たしています。
 酒類は一般の食品と異なり高率な酒税が課されていることから、酒税の確実な徴収と消費者への円滑な転嫁のために、酒類の製造及び販売業については、免許制度が採用されており、国税庁では、制度の目的に沿って適正に運用し、適正公平な課税に努めています。
 このほか、国税庁では、酒類業の業種所管庁として、酒税の保全と酒類業の健全な発達を図るため、人口減少社会の到来、国民の健康・安全性志向の高まりや生活様式の多様化といった酒類業を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、酒類産業全体を展望した総合的な視点から、様々な取組を行っています。

(1) 酒類の安全性の確保と品質水準の向上への取組

 「食の安心・安全」に対する消費者の関心は引き続き高いことから、国税庁では、生産から消費までのすべての段階における安全性の確保と品質水準の向上を図り、消費者に安全で良質な酒類が提供できるよう、以下の施策を行っています。

  1. イ 消費者が酒類を購入する段階である小売販売場から市販酒類を買上げ、安全性、品質及び容器の容量・アルコール分などの表示等を調査し、その結果を消費者に対して国税庁ホームページで情報提供しています。
  2. ロ 消費者が安心して酒類を購入できるよう、酒類の表示義務事項及び表示基準に基づく記載事項を確認し、適正な表示がなされていない場合には、酒類業者に対して是正指導を行っています。また、酒類製造業者に対して、独立行政法人酒類総合研究所の研究成果の普及をはじめとした醸造技術の改善に関する指導や、酒類の安全性に関する製造工程の指導等を行っています。

[独立行政法人 酒類総合研究所]

 酒類総合研究所は、明治37年に大蔵省醸造試験所として設置され、平成13年4月に国税庁醸造研究所から独立行政法人に移行しました。同法人は、酒税の適正かつ公平な賦課の実現に資するとともに、酒類業の健全な発達を図り、あわせて酒類に対する国民の認識を高めることを目的として、酒類に関する高度な分析及び鑑定、酒類及び酒類業に関する研究・調査・情報提供等を行っています。詳しくは、独立行政法人酒類総合研究所ホームページ http://www.nrib.go.jpをご覧ください。

(2) 社会的要請への対応

 国税庁では、未成年者飲酒及びアルコールに起因する迷惑行為等を防止するため、関係省庁や業界等と連携して、適正な販売管理体制の整備に努めています。
 このほか、国税庁では、資源の有効な利用の確保を図るため、酒類容器のリサイクルや酒類の製造過程において発生する食品廃棄物の発生抑制等について、酒類業者の取組が促進されるよう、制度の周知・啓発を行っています。

(3) 酒類の公正な取引環境の整備への取組

 国税庁では、酒税の確保及び酒類の取引の安定を図るため、酒類の公正な取引環境の整備に向けた酒類業者の自主的な取組が推進されるよう、平成18年8月に公表した「酒類に関する公正な取引のための指針」を引き続き周知するとともに、取引状況等実態調査を実施し、この指針に則していない取引が認められた場合には改善を指導し、必要に応じて公正取引委員会と連携して、酒類の公正な取引環境の整備に取り組んでいます。

取引状況等実態調査の実施状況のグラフ

(4) 酒類業者に対する情報提供等

 国税庁では、業界動向の調査の実施や、経営指導の専門家などによる研修の実施、経営改善の成功事例や各種中小企業施策に関する情報提供などを通じて、酒類業者の自主的な取組の支援を行っています。
 また、海外での日本食ブームに伴い、日本産酒類への評価が高まっていることから、酒類の輸出に関する情報を提供するなど、輸出環境の整備に努めています。

「酒類に関する公正な取引のための指針」(平成18年8月31日制定)

酒類に関する公正な取引のための指針(酒税の確保及び酒類の取引の安定化、酒類業の健全な発達)
  1. 1 近年の酒類市場
    • ⇒●経営環境の変化(人口減少社会の到来など)…>酒類全体では数量ベースでの国内市場の拡大困難
    • ●酒類小売業の多様化(コンビニ、スーパー、ドラッグストアなど)…>事業者間で取扱数量や取引 価格に格差
  2. 2 酒類業の健全な発達に向けた課題
    ⇒「量から質への転換」、「消費者の視点」、「販売管理」、「公正取引の確保」
  3. 3 酒類業組合法第84条《酒税保全のための勧告又は命令》の適用の可能性を踏まえつつ、「酒類に関する公正な取引の在り方」、「公正取引委員会との連携方法等」を提示
    ⇒公正取引の確保に向けた自主的な取組を促進

第一 酒類に関する公正な取引の在り方(酒税保全の観点から酒類取引の在り方を提示)

1 合理的な価格の設定

  1. 1 価格は「仕入価格+販管費+利潤」となる設定が合理的 また、酒類の特殊性から妥当なものであるべき
  2. 2 酒類の特殊性に鑑みれば、顧客誘引のための「おとり商品」として使用することは不適正な慣行であり改善していくべき
  3. 3 的確な需給見通しい基づき、適正生産を行うべき

2 取引先等の公正な取扱い

 合理的な理由がなく取引先又は販売地域によって取引価格や取引条件について差別的な取扱いをすることは、価格形成を歪める一因

3 公正な取引条件の設定

 スーパー等大きな販売力を持つ者が、自己都合返品、プライベート・ブランド商品の受領拒否、従業員等の派遣、協賛金や過大なセンターフィーの負担等の要求を一方的に行う場合、又はこれらの要求拒否として不利益な取扱いをする場合は、納入業者の経営を悪化させ、製造業者の代金回収に影響し、酒税保全上の問題発生のおそれ

4 透明かつ合理的なリベート類

 透明性及び合理性を欠くリベート類は、廃止していくべき

第二 取引状況等実態調査の実施及び公正取引委員会との連携等(国税庁の対応)

1 効果的な取引状況等実態調査の実施等

  1. 1 市場への影響の大きな業者に対し重点的に調査を実施
  2. 2 改善指導を行った業者についてはフォローアップ調査を実施
  3. 3 問題取引とその指導事績は可能な限り具体的に公表し、他の業者において同様の取引が行われないよう啓発

2 酒税保全措置

  1. 1 酒類業組合法第84条第1項に規定する過当競争の有無は、第1の「酒類に関する公正な取引の在り方」を参考に判定
  2. 2 酒税保全措置が必要な事態があるときは、事態解消に必要最小限の措置

3 独占禁止法違反等への対応

 国税局長は、酒類業者の取引に関し独占禁止法に違反する事実があると思料したときは、公正取引委員会に対しその事実を報告

4 公正取引委員会との連携等

  1. 1 国税庁は公正取引員会と流通上の諸問題について協議
  2. 2 国税局に市場問題の情報を一元的に管理する担当者を配置