(1) 酒類業の体質改善のための取組

酒類業の体質改善を図るためには、「量から質への転換」、「消費者の視点」を踏まえた対応などが必要であり、消費者の視点に立ち、良質で安全な酒類を生産し、適切な品質管理の下、消費者に適切な情報とともに提供できるよう、酒類の製造から販売までの各段階の課題に業界と行政が連携して取り組んでいくことが重要です。
このため、消費者の意見に積極的に耳を傾け、酒類業界に情報提供するとともに、小売段階における酒類の表示と品質・安全性のチェックを行っています。
平成17年10月には、適切な商品情報の提供や清酒の地域ブランド確立に向けた業界の取組を支援するため、ぶどう酒と蒸留酒を対象としていた「地理的表示に関する表示基準」に、清酒の地理的表示を保護する規定を追加し、同年12月に「白山」を清酒としては初めて産地指定しました。
また、海外の日本食に対する関心の高まりなどに伴い、日本文化としての我が国の酒類への評価が高まっていますので、酒類業者に対して輸出に必要な手続の情報を提供するなど、輸出環境の整備について支援を行っています。
このほか、酒類業者に対して、自らの経営上の問題点の認識を促す取組や、経営指導の専門家による研修会の実施、経営上の成功事例、中小企業施策に関する情報提供、経営革新計画の取組などに対して支援を行っています。


(2) 公正な取引環境の整備

酒類業の健全な発展のためには、公正な取引環境の整備が重要です。そこで、平成18年8月に、従来の指針を見直し、「酒類に関する公正な取引のための指針」を定めて、その周知・啓発を通じて、公正な取引に向けた酒類業者の自主的な取組を推進しています。「指針」には、「合理的な価格の設定」、「取引先等の公正な取扱い」、「公正な取引条件の設定」、「透明かつ合理的なリベート類」について、すべての酒類業者が自主的に尊重すべき公正な取引の在り方が示されています。こうした中、酒類業界でも、自主的にコストオン方式による合理的な価格設定、引条件に係る自社基準の策定などの公正な取引を推進するための取組を行っています。
また、国税庁では、酒類の取引状況を調査し、必要に応じて公正取引委員会とも連携して改善指導を行っています。

(3) 独立行政法人酒類総合研究所との連携

 各国税局の鑑定官室では、酒造メーカーへの技術指導や市販酒類調査を通じて、国内で流通している酒類の品質の向上と安全性の確保を図っています。また、酒類の品質の向上と安全性の確保のために必要な新しい醸造技術や分析手法に関する研究・開発など高度な技術的問題については、独立行政法人酒類総合研究所と情報交換し、連携して対応しています。

独立行政法人酒類総合研究所

酒類総合研究所は、明治37年に大蔵省醸造試験所として東京・滝野川に設置され、平成13年4月に国税庁醸造研究所から独立行政法人に移行し、さらに、平成18年4月には、民間・大学などとの人事交流などの連携を促進する観点から、非公務員型の独立行政法人となりました。酒類にかかわる我が国唯一の総合的研究機関として、酒税の適正かつ公平な課税の実現のための高度な分析・鑑定とともに、酒類に関する研究・調査や中小酒造メーカー向けの講習、消費者向けの教養講座なども行っています。詳しくは、独立行政法人酒類総合研究所ホームページ http://www.nrib.go.jp をご覧ください。


(4) 社会的な要請への対応

未成年者の飲酒防止などの社会的な要請に応えるため、平成15年4月の「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」などの改正により導入された酒類販売管理者の選任義務、酒類販売管理研修の受講、酒類の陳列場所における表示義務の遵守について、その徹底を図りました。また、酒類の陳列場所における表示の基準について、より説得力、実効性のある表示とし、未成年者の酒類へのアクセスを未然に防止するため、平成17年9月に、「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」旨の表示を、「20歳以上の年齢であることを確認できない場合には酒類を販売しない」旨の表示に改正しました。
また、飲酒運転の問題をはじめとする社会的要請への対応については、酒類業界だけではなく、家庭、学校、地域社会、行政それぞれの取組が重要であり、関係省庁、酒類業者などとの連携・協調を図りつつ取り組んでいます。
このほか、平成17年5月の世界保健総会1の決議を受け、国税庁では、酒類の不適切な摂取による健康や社会に与える影響の低減のための取組について、関係省庁や業界と検討しています。


(5) 免許申請などの適正な処理

平成18年8月31日をもって「酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法」に基づく緊急調整地域の指定が失効しました。これに伴い、多数の酒類小売業免許の申請が行われており、免許の審査に当たっては、適正かつ早期の処理を図っています。
また、新規免許者については、酒類販売管理者の選任や酒類販売管理研修の受講など、免許業者としての義務について適正に指導しています。


1 「世界保健総会」とは、WHO(世界保健機関)の最高意思決定機関をいいます。

酒類に関する公正な取引のための指針(平成18年8月31日制定)

酒類に関する公正な取引のための指針(酒税の確保及び酒類の取引の安定化、酒類業の健全な発達)

はじめに

  1. 1 近年の酒類市場
    • ・経営環境の変化(人口減少社会の到来など)
      ⇒酒類全体では数量ベースでの国内市場の拡大困難
    • ・酒類小売業の多様化(コンビニ、スーパー、ドラッグストアなど)
      ⇒事業者間で取扱数量や取引価格に格差
  2. 2 酒類業の健全な発達に向けた課題
    • 「量から質への転換」、「消費者の視点」、「販売管理」、「公正取引の確保」
  3. 3 酒類業組合法第84条〈酒税保全のための勧告又は命令〉の適用の可能性を踏まえつつ、「酒類に関する公正な取引の在り方」、「公正取引委員会との連携方法等」を提示
    • 公正取引の確保に向けた自主的な取組を促進

第1 酒類に関する公正な取引の在り方
(酒税保全の観点から酒類取引の在り方を提示)

  1. 合理的な価格の設定
    1. 1 価格は「仕入価格+販管費+利潤」となる設定が合理的また、酒類の特殊性から妥当なものであるべき。
    2. 2 酒類の特殊性に鑑みれば、顧客誘引のための「おとり商品」として使用することは不適正な慣行であり改善していくべき。
    3. 3 的確な需給見通しに基づき、適正生産を行うべき。
  2. 取引先等の公正な取扱い
    合理的な理由がなく取引先又は販売地域によって取引価格や取引条件について差別的な取扱いをすることは、価格形成を歪める一因
  3. 公正な取引条件の設定
    スーパー等大きな販売力を持つ者が、自己都合返品、プライベート・ブランド商品の受領拒否、従業員等の派遣、協賛金や過大なセンターフィーの負担等の要求を一方的に行う場合、又はこれらの要求拒否を理由として不利益な取扱いをする場合は、納入業者の経営を悪化させ、製造業者の代金回収に影響し、酒税保全上の問題発生のおそれ。
  4. 透明かつ合理的なリベート類
    透明性及び合理性を欠くリベート類は、廃止していくべき。

第2 取引状況等実態調査の実施及び公正取引委員会との連携等
(国税庁の対応)

  1. 効果的な取引状況等実態調査の実施等
    1. 1 市場への影響の大きな業者に対し重点的に調査を実施
    2. 2 改善指導を行った業者についてはフォローアップ調査を実施
    3. 3 問題取引とその指導事績は可能な限り具体的に公表し、他の業者において同様の取引が行われないよう啓発
  2. 酒税保全措置
    1. 1 酒類業組合法第84 条第1 項に規定する過当競争の有無は、第1の「酒類に関する公正な取引の在り方」を参考に判定
    2. 2 酒税保全措置が必要な事態があるときは、事態解消に必要最小限の措置
  3. 独占禁止法違反等への対応
    国税局長は、酒類業者の取引に関し独占禁止法に違反する事実があると思料したときは、公正取引委員会に対しその事実を報告
  4. 公正取引委員会との連携等
    1. 1 国税庁は公正取引委員会と流通上の諸問題について協議
    2. 2 国税局に市場問題の情報を一元的に管理する担当者を配置

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