3 国際的租税回避などへの対応

国際取引を利用した脱税や租税回避に対しては、税務調査を通じて、事実関係を的確に把握した上、適正な課税を行うこととしています。このため、国際税務専門官の増員やプロジェクトチームの設置など、調査体制の充実を図るとともに、租税条約に基づく情報交換の活用や海外への資金の流れの把握など、あらゆる機会を通じて課税上有効な資料情報の収集を図っています。また、海外に所在する関連企業との取引価格を通じた移転価格の問題についても、税務調査を通じて適切に対応しています。


(1) 国際的租税回避スキームへの対応

個人や企業の国境を越えた事業活動の活発化に伴い、各国の税制の差異や租税条約の違いを巧みに利用して租税負担を軽減する国際的租税回避が問題となっています。国際的租税回避には、金融や法律・税の専門家などが関与し、匿名組合契約、パートナーシップ、LLC(Limited Liability Company)といったさまざまな事業体や新たな金融手法を駆使した複雑なスキームが用いられています。
このような租税回避スキームに対しては、適正・公平な課税を実現するという観点から、あらゆる機会を通じてその取引の把握と実態解明に取り組み、課税上問題があると認められる場合には、綿密な税務調査を行い、租税回避スキームによって回避された税金が最終的に善良な納税者の負担となることのないよう、厳正に対処することとしています。
このため、国際税務専門官を増員するとともに、主要な国税局に国際調査課などを設置するなど、調査体制の充実・強化に取り組んできました。最近では、国際的な課税問題のすそ野が大企業や多数の海外子会社を有する法人のみならず、個人富裕層にも広がってきており、主要な国税局に「国際化対応プロジェクトチーム」を設置し、租税回避スキームの把握・実態解明、海外金融資産の保有などに関する情報の把握にも取り組んでいます。
また、職員の研修機関である税務大学校において、国際租税法や租税条約、デリバティブ(金融派生商品)、語学などの研修を実施しています。
さらに、現行法令の下では対応困難な租税回避スキームについては、担当部局に対して制度の整備を求めることとしています。


(2) 移転価格問題への対応

企業活動の国際化によって、移転価格の問題が国際課税の分野において重要になってきました。例えば、我が国の親会社が海外の子会社に製品を輸出する際、その価格を低く設定することにより所得の海外移転を生じさせるなどの事例です。こうした問題に対処するため移転価格税制が整備されています。
国際化の進展により企業が世界各国で事業を行うようになってきたことに伴い、移転価格税制の対象となる取引が増加するとともに、内容的にも複雑・高度化しており、特に、無形資産を伴う取引の重要性が増してきています。国税庁としては、こうした経済情勢などの変化に的確に対応し、我が国の課税所得の国外への流出を防止するため、移転価格税制の的確な執行を通じ、適正な国際課税の実現を図っています。
また、移転価格課税に関する透明性、予測可能性を確保するため、運用の明確化と事前確認の処理体制の充実を図っています。
運用の明確化については、ほぼ毎年のように移転価格税制に関する法令解釈通達や事務運営指針を整備・改正し、その公表を通じて、適用基準や執行方針の明確化を図ってきていますが、さらに、これまでの課税事績などを参考に一定の前提条件の下での取扱いを取りまとめた「移転価格参考事例集」を事務運営指針の別冊として作成し、公表することとしました。
事前確認については、近年の国際取引の増加を反映し、申出件数が増加してきていますので、各国税局に事前相談(事前確認の申出の前に国税当局が申出する納税者から受ける相談)の窓口を設け、事前確認への対応をしています。また、事前確認や事前相談の手続の概要をホームページに掲載するなど事前相談の利用環境整備を図っています。さらに、事前確認審査担当者を増員するなどの執行体制の整備や事務の効率化、相互協議相手国との緊密な連携の推進により、処理の促進を図っています。
なお、平成19年4月から、移転価格税制の特質にかんがみ、二国間の協議で合意が得られるまでの間、二重課税に伴う負担を軽減するため、納税を猶予する制度が導入されました。

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