税務行政を取り巻く環境の変化への対応

 現在我が国は、かつてない速さで少子・高齢化が進んでおり、高齢化に伴い貯蓄率が署しく低下しております。また、人□動態から見るとおそらく今年が人□のピークとなり、来年以降は人□減少に転ずることが見込まれるとともに、いわゆる「右肩上がり経済」は終焉を迎え、こうした社会を支えるための税制の見直しも進行しています。
 また、企業や家族のあり様が大きく変化してきており、日本型雇用慣行にゆらぎが見られ、働き方や家族のかたちも多様化してきています。
 更にアジア諸国の経済発展や経済のグローバル化により、個人や企業の国境を越えた活動が広がりを見せ、対内・対外直接投資の増加や国際的租税回避スキームの巧妙化が進んでいます。
 行政改革が継続する中で定員については厳しい状況が続く一方、消費税の事業者免税点の引下げや年金課税の見直し等に伴う申告者数の増加、調査・徴収事務の複雑・困難化、国税の職場環境の変化等、行政を取り巻く環境は、質的にも量的にも一層厳しさを増しています。
 このような厳しい状況の中で、引き続き、国民の負託に応えていくためには、職員が意欲を持って働ける職場環境づくりに配意しつつ、国税庁に課された適正かつ公平な税務行政の推進及び納税環境の整備に、従来以上に効果的・効率的に取り組むことが必要であると考えられます。
 このため、国税当局、申告納税制度の趣旨に沿って納税者、公共的使命を有する観点から税理士について、それぞれの役割を再整理し、限られた資源を効果的・効率的に配分しながら、メリハリのある税務行政を行っていく必要があります。これにより、十分な調査・徴収事務量を確保し、納税者のコンプライアンスの維持・向上を図っていくとともに、納税者サービスにも配意していくことが重要と考えます。
 具体的には、以下の事項について広く見直しを行っています。

●納税環境の整備

 申告者の増加に対応して、納税者が自ら税額を計算して申告・納税する申告納税制度の趣旨に沿って納税者サービスを再構築していく必要があります。このため、国税庁では、国税庁ホームページの充実などにより、納税者への税務情報の提供を拡充するとともに、電子申告・納税システム(e-Tax)、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」の充実等、ITを活用した申告・納税を推進することにより、申告・納税の手段の多様化に努めています。また、効率的な税務相談体制の構築に向けた検討を進めています。

●内部事務の基本的見直し

 税務署における内部事務については、国税庁の事務が納税者の権利・義務に直接影響を及ぼすものであることに十分な配意をしながら、IT化に対応した事務の見直し(事務の統合・合理化、集中処理等)や、職員以外でも実施可能な事務のアウトソーシング化の徹底等により、効率化、スリム化を促進していくこととしています。

●調査・徴収事務の基本的見直し

 納税者のコンプライアンスの維持・向上のため、税務調査や滞納整理を、更に効果的、効率的に実施していく必要があります。そこで、国際的な租税回避スキームや電子商取引などの先端分野への対応を充実させるとともに、国税組織全体を通じた調査・徴収事務の基本的な見直しを行っています。
 他方、申告納税制度を支える税理士の公共的使命にかんがみ、税理士法に基づく書面添付制度の育成等に努めています1。また、納税者が自己の経済活動についての税金の問題が事前に予測が可能となるよう、事前照会への対応の充実や移転価格に関する事前確認制度の活用を推進しています。

●国税職員の職場環境の整備

 職員が意欲と希望を持って職務に精励できる職場環境づくりを進めており、子育てと仕事の両立という視点に立った職場環境の整備を行うため策定した「国税庁特定事業主行動計画」の推進、環境の変化に対応した研修制度の見直し等を行うこととしています。

 以上の諸施策を推進するために、限られた定員の最適配分、定量的効果を踏まえた予算配分、適材適所の人事配置に、より一層努めていきます。

●業務・システムの最適化計画

 国税庁では、従来から、税務行政の諸課題について検討を重ね、実現可能なものについては改善を図ってきました。政府全体の取組みとして平成15年(2003年)7月に決定された「電子政府構築計画」に基づき、情報通信技術(IT)を最大限に生かした業務の効率化、納税者サービスの向上、更には調査・滞納整理事務などの充実を図ることとし、平成17年(2005年)6月に「国税関係業務・システムの見直し方針」を策定し、公表しました。(詳細はhttp://www.nta.go.jp/information/attention/data/h17/4115/01.htm参照)
 業務・システムの見直しにおいては、次の4点を理念として検討を進めていくこととしています。

  1. (1) 業務の効率化・合理化を図るため、税目別の事務処理から機能別の事務処理への見直し、また、その事務処理に適応したシステムへの移行など、業務・システムの抜本的な見直しを行い、税務行政の簡素化、業務効率の向上を徹底的に追求する。
  2. (2) 納税者の視点に立ったIT活用による納税者利便性の向上を更に推進する。
  3. (3) IT活用による調査・滞納整理事務の高度化を図る。
  4. (4) システムの安全性・信頼性及びセキュリティの確保に万全を期しながら、上記(1)から(3)までの見直しとともに、経費削減を図る。

 この見直し方針を踏まえ、具体的な見直しの時期や経費、業務処理時間の削減効果等も盛り込んだ「国税関係業務の業務・システムの最適化計画」を、平成18年(2006年)3月までに策定し、公表することとしています。


  1. 1 「4.申告納税制度 (5)税理士の役割」を参照。

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