1 制度のあらまし

 国税に関して納税者から正当な権利利益を侵害されたとして不服の申立てがあったときに、これを審理し救済する制度として、「不服申立て」と「訴訟」がある。

 不服申立ては、更正・決定や差押えなどの処分がなされた場合に、その処分に不服がある者が行政庁に対してその処分の取消しや変更を求める制度で、まず、処分を行った行政庁に対して不服を申し立てる。これが「異議申立て」であり、行政争訟の第一段階としての地位を占めているということができる。

 次に、この異議申立てに対する行政庁の決定を経た後の処分になお不服があるときは、「審査請求」を行うことができる。これは、一般的には処分庁の直近上級行政庁に対して提起するものであるが、国税についての審査請求は、特にそのための第三者的機関として設置された国税不服審判所(長)に対して提起する。

 更に、国税不服審判所長の裁決を経た後の処分になお不服があるときは、裁判所に対して訴訟を提起することができる。

 行政争訟制度については、一般法として行政不服審査法及び行政事件訴訟法があるが、国税に関する争訟については、当該処分が大量かつ反復して発生すること、また、専門的であることなどの特殊性を考慮し、国税通則法において特例規定が定められている。

 すなわち、行政不服審査法では審査請求中心主義を採用しているのに対し、国税通則法では原処分庁に再調査の機会を与えるのが適当であるとの趣旨から、処分に対して不服がある者は、まず異議申立てを提起することを原則としている一方で、「審査請求」は直近上級行政庁に対して行うのではなく、原処分庁とは独立した専門機関としての国税不服審判所になされることとされている。

 また、行政事件訴訟法では不服申立てを経由することなく訴訟を提起することができるとされているのに対し、国税通則法では国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えについては、原則として、不服申立てに対する行政庁の決定又は裁決を経た後でなければ、訴訟を提起することができないという不服申立前置主義が採用されている(図9参照)。これは、課税処分等が大量かつ反復して発生するものであることから、原処分庁・審判所の段階で専門知識、経験を活かして解決を図ることにより、裁判所への大量の取消訴訟が生ずることを回避するとともに、税務行政の統一的運用に資する等を意図したものである。

2 異議申立て

 「異議申立て」は、処分を行った行政庁(通常は税務署長)に対して提起される。

 これは、争いの当事者である行政庁自らが処理することによって、簡易迅速な手続により国民の正当な権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的としている。

 異議申立ては、処分の通知を受けた日の翌日から起算して2か月以内にしなければならない。異議申立てがされると、行政庁(通常は税務署長)ではその事案の調査、審理を行い、申立てに理由がない場合には、その申立てを棄却する決定をし、また、申立てに理由がある場合には、その申立てに係る処分の全部又は一部を取り消す等の決定をする。

 なお、異議申立てに係る事案の調査、審理に当たっては、公正で客観的な判断がなされるよう更正・決定や差押えなどの処分を担当した者以外の職員が担当者に指定される。

 異議申立てがされた場合でも、その申立ての対象となっている処分の効力はその処分を取り消す決定がなされるまでは失われない(執行不停止の原則)。

 異議申立ての発生・処理状況は表36のとおりであるが、昭和55年(1980年)度と比較して発生件数が大幅な減少を示しているのは、給与所得者の税負担の軽減を図る運動の一環として源泉徴収税額の還付を求める事案の減少によるものである。

3 審査請求

 異議申立てに対する税務署長(又は国税局長)の決定を受けてもなお不服がある場合には、異議決定書謄本が送達された日の翌日から起算して1か月以内に、国税不服審判所長に審査請求をすることができる。なお、異議申立てをした日の翌日から起算して3か月を経過しても異議申立てについての税務署長(又は国税局長)の決定がないときは、その決定を経ないで国税不服審判所長に審査請求をすることができる。

 ただし、次のような場合のうち、13については選択により異議申立てを経ないで、また、4については、異議申立てはできず、直接、審査請求をすることとされている。この場合の審査請求の期限は、処分の通知を受けた日の翌日から起算して2か月以内となっている。(表36参照

  1. 1 所得税又は法人税の青色申告書に係る更正処分であるとき。
  2. 2 国税局長がした処分であるとき。
  3. 3 異議申立てができる旨の教示がないとき。
  4. 4 国税庁、国税局、税務署及び税関以外の行政機関の長又はその職員がした処分に不服があるとき。

(国税不服審判所)

 国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対して裁決を行う機関であり、適正・迅速な裁決により、納税者の正当な権利利益の救済を図り、併せて税務行政の適正な運営の確保に資するため、昭和45年(1970年)5月に国税の賦課徴収に当たる処分庁(国税局、税務署等)から分離された国税庁の附属機関として設置された。なお、昭和59年(1984年)7月に国税庁の「附属機関」から「特別の機関」に改められている。

 本部は東京に置かれ、全国の主要12都市に支部、7都市に支所が置かれている。

 国税不服審判所は、国税不服審判所長の下に、国税審判官、国税副審判官、国税審査官及び管理室(課)から構成されている。国税不服審判所長は、国税庁長官が財務大臣の承認を受けて任命している。

 審査請求事件の調査及び審理に当たるのは、国税審判官、国税副審判官及び国税審査官である。

 審査請求事件の調査・審理の中心となる国税審判官には、判事あるいは検事、税務に従事した経験豊富で適性を有する職員等から登用している。これは、国税審判官には、税務に関する専門的な知識及び事実関係の調査能力とともに法律的な素養が必要であることを考慮したものである。現在、国税不服審判所長をはじめ、東京及び大阪の首席国税審判官等枢要な部署には、司法界の出身者を任命している。

(審理及び裁決)

 審査請求事件の調査・審理に当たっては、審査請求人の正当な権利利益の救済を図るため、審査請求人及び原処分庁の主張等を的確に把握し、個別的に妥当性のある結論を迅速に出すように努めている。そのため、審査請求人の審理手続上の諸権利を十分尊重するとともに、審査請求人と原処分庁の主張の食い違う点(「争点」という。)を主たる審理事項とする争点主義的運営を行っている。

 また、審査請求書が提出されると、原処分庁から答弁書の提出を受けた後、事件の公正妥当な結論を得るため、担当審判官(1名)及び参加審判官(2名以上)で構成される合議体が編成される。合議体は、審査請求人の正当な権利利益救済の観点から、当事者の主張を十分聴取するなど、充実した合議の下、適正・迅速に調査、審理を進めることとしている。

 国税不服審判所長は、この合議体の議決に基づいて、審査請求に理由がないときはこれを棄却し、理由があるときはその処分の全部若しくは一部を取り消し、又は変更する裁決を行う。ただし、審査請求人の不利益になるように処分を変更することはできない。審査請求が法定の期間経過後にされたものであるとき、その他不適法であるときは、これを却下する裁決を行う。また、国税不服審判所長の裁決は、国税庁での最終判断であり、原処分庁は、仮にこれに不満があっても訴えを提起することはできない。

 なお、国税不服審判所長は、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決をすることや、法令の解釈の重要な先例となるような裁決をすることができる。しかし、同一の法令について、税務の執行機関と審査請求の裁決機関とが異なった解釈をとることは、税務行政の統一ある運用が阻害されることとなりかねない。そこで国税不服審判所長は、このような裁決を行うときは、あらかじめその意見を国税庁長官に申し出ることとされている。

 国税庁長官は、国税不服審判所から意見の申出があった場合において、国税不服審判所長の意見が審査請求人の主張を認容するものであり、かつ、国税庁長官がその意見を相当と認めた場合には、その旨を国税不服審判所長に指示し、それ以外の場合は、その意見を民間の学識経験者によって構成される国税審議会に諮り、国税審議会の議決に基づいて国税不服審判所長に指示しなければならないこととされている。

(審査請求の状況)

 審査請求の発生状況をみると、昭和45年(1970年)度以降約5,000件で推移していたが、昭和49年(1974年)度には1万4,071件と激増し、以後昭和59年(1984年)度まで1万件台で推移してきた。 これは給与所得に係る源泉所得税額の還付関係の事件が増加したことによるものであるが、昭和60年(1985年)度以降これらの事件は急減し、現在は3,000件前後で推移している。

 なお、最近における審査請求の状況は表37のとおりである。(表37参照

4 訴訟

 訴訟は、独立かつ公平な第三者である裁判所が、対立する当事者の口頭弁論に基づき紛争を解決する制度であって、国民の権利利益の保護の上で最も重要な地位を占めている。

 我が国では、行政事件に関する訴訟も司法裁判所によって審理されており、行政裁判所は設けられていない。国税の賦課徴収処分の取消しを求める訴訟は、原則として、不服申立てに対する決定又は裁決を経た後でなければ提起することができないこととなっている。この取消訴訟は、原則として、審査請求に対する裁決があったことを知った日から起算して3か月以内に提起しなければならない。

 なお、訴訟が提起された場合でも、その争いの対象となっている処分の効力はその処分を取り消す判決が確定するまでは失われない。

 訴訟事件の状況は、表38のとおりである。平成14年度は、提起件数は前年度を若干下回ったものの、終結件数が提起件数を下回ったことから、係属件数が増加した。