7 国際税務

  1. (1) 経済の国際化と税務行政

     我が国経済の国際化の進展に伴い、企業の海外取引の内容はますます複雑・多様化しており、更に情報通信技術(IT)の進展、金融分野の規制緩和等により、国際課税をめぐる環境は大きく変化している。

    1. イ 執行体制の整備

       国税庁に、主として外国税務当局との間の情報交換・国際会議及び国際協力の事務を担当する国際業務課、相互協議を担当する相互協議室、大法人の海外取引調査・移転価格調査等に係る事務を担当する国際調査管理官が設置されているほか、国税局に国際調査課、国際情報課等が設置されているところであり、経済の国際化に合わせて、これらの機構の拡充をはじめ執行体制の整備を図っている。

       なお、平成14年7月には、東京・大阪・名古屋・関東信越の4つの国税局に、海外資産の把握(資料源開発)等を行う専担者を配置した「国際化対応プロジェクトチーム」を設置し、中でも東京局には国際的な租税回避スキームの解明を行う専担部署を設けたところである。

    2. ロ 調査の充実

       近年、外国の多様な事業体や金融手法等を駆使した複雑な取引を用いて、我が国における租税負担の軽減を図る事例が散見されるようになってきており、国税庁としてもそれらに的確に対応すべく調査の充実に努めているところである。

       海外に進出して国際的事業展開を図っている大法人に対しては、従来からその海外子会社との取引等に着目した調査を実施してきているが、近年はわが国の事業に参入している外国法人等に対する調査にも重点を置いているところである。また、国際的な資本移動の自由化等を背景に中小法人や個人投資家の海外投資等も活発化してきたため、国際化対応プロジェクトチームにおいて実態解明及び情報収集等に積極的に取り組んでいるところである。

       海外取引に係る調査においては、取引の相手方が日本国内に所在しないこと、取引慣行・形態が各国によって異なることなどから、租税条約に基づく相手国の税務当局との情報交換制度の活用や海外関連の各種資料情報の収集等により、調査の充実を図っているところである。

       また、調査審理機能の充実等を図るとともに、海外取引調査に係る研修の内容を充実して専門家の養成にも努めているところである。

    3. ハ 移転価格税制の執行

       移転価格税制は、企業活動の国際化の進展に伴い、海外に所在する親会社・子会社等との取引を通じた所得の海外移転に適切に対処し、適正な国際課税の実現を図ることを目的として設けられたものである。

       移転価格税制の執行に当たっては、次の点に留意している。

      1. (イ) 法人と海外に所在する親会社・子会社等との取引に付された価格が、第三者間の取引においても通常付された価格かどうか十分に検討し、問題があると認められる取引については、移転価格の観点から幅広い事実の把握に努め、独立企業間価格の算定方法等について的確な調査を実施する。
      2. (ロ) 独立企業間価格の算定方法及び具体的内容に関し、法人の申出を受け、国税当局がこれに確認を与えるという事前確認を行うことにより、当該法人の予測可能性を確保し、移転価格税制の適正・円滑な執行を図る。
      3. (ハ) 移転価格税制に基づく課税により生じた国際的な二重課税の解決には、移転価格に関する各国税務当局による共通の認識が重要であることから、必要に応じOECD移転価格ガイドラインを参考とし、適切な執行に努める。
    4. ニ 相互協議

       相互協議とは、納税者が租税条約の規定に適合しない課税を受け、又は受けるに至ると認められる場合において、その条約に適合しない課税を排除するため、条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続である。我が国が締結している45の租税条約(適用対象国は55か国)すべてに、相互協議に関する規定が置かれている。

       移転価格課税により国際的な二重課税が生じた場合、納税者が二国間の事前確認を求める場合、租税条約の規定に反すると考えられる課税が行われた場合等には、外国税務当局との相互協議を実施して問題の解決を図っている。(表30参照

  2. (2) 外国税務当局との協力体制

     租税条約に基づく情報交換の実施を通じて外国税務当局との間の協力関係の推進を図るとともに税務当局間の相互理解の促進、国際的課税ルールの醸成という観点から、OECD租税委員会、環太平洋税務長官会議(PATA)、アジア税務長官会議(SGATAR)、等の国際会議に積極的に参加してきている。

     また、開発途上国の税務行政に関する国際協力・支援を積極的に推進しており、受入研修として、複数の開発途上国を対象とする国際税務行政セミナー(ISTAX)、中国、インドネシア、カンボジア等に対する国別税務行政研修及び主として各国の税務職員を対象とする国税庁実務研修を実施している。さらに開発途上国からの要請に基づき、長期及び短期の専門家の派遣を行っている。(表31,32参照)

8 認定NPO法人制度

 特定非営利活動法人(NPO法人)の活動を支援することを目的として、平成13年(2001年)度税制改正において、認定NPO法人制度が創設された。この制度は、NPO法人のうち一定の要件を満たすものとして国税庁長官の認定を受けたもの(認定NPO法人)に対して個人、法人及び相続又は遺贈により財産を取得した者が行った寄附について、これを寄附金控除等の対象とするものである。

 この認定NPO法人制度は平成13年(2001年)10月1日から施行されており、平成15年(2003年)12月31日現在の認定NPO法人は、19法人である。

9 広報広聴

 申告納税制度の下で、適正公平な課税を実現するため、税務行政は、相談、指導及び調査とともに広報広聴を重要な柱として運営している。

  1. (1) 広報広聴事務のねらい

     広報広聴事務は、納税者のみならず広く国民各層に対して、税の意義や役割、一般的な税の仕組み等を知らせ、税についての正しい理解を得ることによって、納税者が自ら適正な申告と納税を行うという基盤を築くため、1納税者意識の高揚を図ること、2税に関する知識の普及と向上を図ること、3税務行政に対する納税者等のニーズを的確に把握すること、4納税者と税務当局との双方向の情報交換を推進することにより、相互理解を深め、両者の信頼関係を高めること、5報道機関の税務行政に対する理解と協力を確保することをねらいとして実施している。

  2. (2) 広報広聴体制

     広報広聴事務は、国税庁においては長官官房広報広聴官、国税局においては総務部国税広報広聴室(沖縄国税事務所にあっては国税広報広聴官)がそれぞれ担当している。

     平成3年(1991年)度の機構改革以降、広報体制の充実が図られ、現在は、県庁所在地等の税務署をはじめ全国で84の主要税務署に税務広報広聴官が配置されている。これらの署にあっては原則1署2人体制で、当該税務署及びその周辺税務署との連携の下に、これらの地域における租税教育の推進等をはじめとする各種広報広聴事務を担当している。なお、税務広報広聴官を設置していない税務署の広報広聴事務は、総務課が担当している。

     また、平成12年度に広聴機能の充実を図るため、税務行政に対する納税者のニーズを的確に把握し、納税者利便向上や事務運営の改善に資するとともに、納税者と国税当局の双方向の意見交換や情報の交換を推進する体制を整備した。

  3. (3) 広報活動の概要
    1. イ テレビ・ラジオ・インターネット・新聞等の活用

       国税庁提供のテレビ・ラジオ番組の放送のほか、内閣府政府広報室や地方公共団体などの協力も得て、各種広報媒体により日常生活に密着した税関係の題材を取り上げ、納税者意識の高揚、国税当局への信頼確保、税に関する知識の普及、期限の周知等を行っている。また、新聞、テレビ等の報道機関に対して資料の提供を行い、税務行政の現状を広く国民に理解してもらうよう努めている。平成10年(1998年)11月からは、インターネットに「国税庁ホームページ」を開設し、身近な税の情報や業務内容、統計情報、記者発表資料のほか、通達等の情報を提供している。

    2. ロ 広報資料の作成

       身近な税の情報を盛り込んだパンフレット「暮らしの税情報」や「国税のしおり」などを作成し配布しているほか、ポスターなども作成・活用している。また海外向けに英語版冊子「ANOUTLINEOFJAPANESETAXADMINISTRATION」を作成している。

       なお、目の不自由な方のために、点字広報誌「私たちの税金」を作成し、税務署に備え付けるとともに全国の点字図書館や盲学校などに配付している。

    3. ハ 「税を知る週間」の実施

       納税者のみならず広く国民各層に、税を正しく理解し、認識してもらうための全国的な統一行事として、毎年「税を知る週間」(11月11日〜17日)を実施し、期間中、納税者等との座談会、「税に関する高校生の作文」の表彰等を行っている。

    4. ニ 確定申告期広報の実施

       確定申告期には、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等を通じて、適正な申告と納税が早期に行われるよう呼び掛けるとともに、申告期限及び納期限の周知を図っている。

    5. ホ 租税教育の推進

       児童、生徒に対する租税教育の充実を図るため、国、地方公共団体、教育関係者などで組織する「租税教育推進協議会」等を設置し、租税教育の基盤整備を図っている。さらに、文部科学省の学習指導要領に準拠した租税教育用副教材「わたしたちの生活と税」等を作成し、小学生、中学生及び高校生に配付しているほか、租税教室の開催依頼や高校生を対象に税に関する作文を募集している。

       さらに、社会科及び商業科の教師を対象として「財政経済セミナー」及び「税務会計セミナー」を開催している。

       また、租税教育をより効果的に行うための児童・生徒向け視聴覚教材として、租税教育用ビデオ「マリンとヤマト不思議な日曜日」、「おしるこ姫 時空の冒険」、「ひょっこりひょうたん島の税ってなんだろう?の巻」等のほか、CD-ROM「Dr.タクスの税金教室」を作成しており、これらは小学校から高等学校までの各学年の学習程度に応じて、租税教室等の場で活用されている。

  4. (4) 広聴活動の概要
    1. イ 窓口等における広聴活動

       税務行政に対する納税者等のニーズを的確に把握するため、広く国民各層から庁、局、署の各窓口やホームページ等に寄せられた意見、要望等を集約し、関係部署において、納税者利便の向上や事務運営の改善に資する方向での改善策の検討を行うとともに、双方向の情報交換の促進という観点から、国税当局の見解や回答を明らかにできるものについては、ホームページ等の媒体を用いて公表するなど、国民に対するフィードバックを行っている。

    2. ロ モニター制度を活用した広聴活動

       納税者等に「国税モニター」を委嘱し、国税に関する意見等の提出、アンケートに対する回答、座談会等への参加、納税者意識の向上に関する諸施策への協力等を依頼している(平成15年度(2003年度)2,793人)。

       また、国税モニターが税務行政全般の実情を正しく理解し、活発に適切かつ公正な意見等を表明することができるよう、定期的に「モニター通信」を作成し情報提供を行っている。

10 税務相談

  1. (1) 税務相談室

     申告納税制度を基盤とした税務行政の円滑な運営を図るためには、納税者が気軽に税に関する相談ができるような税務相談体制を整備し、納税者を援助することが極めて重要である。

     従来、不服申立処理のほか税務相談も担当していた協議団が昭和45年(1970年)5月に国税不服審判所に改組された機会に、税務相談や税務に関する苦情などに積極的に応ずる体制を確立するため、国税局に税務相談室が新設され、税務相談及び苦情の処理を専担する税務相談官が配置された。また、昭和48年(1973年)から全国の主要な税務署内に税務相談室の分室が開設され、平成15年(2003年)7月現在、全国139の分室で税務相談及び苦情の処理に当たっている。

     税務相談官の定数は、全国で634人(平成15年(2003年)7月現在)と定められており、税務相談官には税務全般について経験豊富な職員が配置されている。

     税務相談室の利用については、その組織、広報等の充実が図られ、納税者の税に対する意識や関心が高まったことなどから幅広く利用されている。平成14年度(2002年4月〜2003年3月)に受理した税務相談件数は281万件であり、このうち電話による相談件数が全体の78%を占めている。税務相談の税目別の構成割合をみると、所得税関係が55%で最も多く、次いで資産税関係24%、法人税7%、消費税2%、その他の税目等が12%となっている(図7参照)。

     税務相談に当たっては、納税者が正しい申告と納税ができるよう、納税者からの質問に対して迅速、正確に回答するよう努めている。

     一方、平成14年度(2002年4月〜2003年3月)に税務相談室で受理した苦情事案は2,373件であった。この苦情事案の処理に当たっては、その適否が税務行政の運営全般に影響するところが大きいことから、公平な立場に立って事案を検討し、迅速、適切に処理するよう配意している。

  2. (2) タックスアンサー

     タックスアンサーは、税務相談にコンピュータが回答するシステムであり、簡易定型的な税金に関する情報をインターネット、電話音声及びファクシミリで提供している。

     このシステムは、年々増加する税務相談需要に対応するため、国税庁が推進している税務行政全般の事務機械化の一環として、昭和62年(1987年)1月に電話音声によるタックアンサーを導入し、平成4年(1992年)6月からは、ファクシミリ・サービスを開始した。また、平成9年(1997年)1月からは、インターネット・ホームページでも情報の提供を開始し、平成12年(2000年)7月からは、インターネットへの接続機能を持った携帯電話からも情報の閲覧が可能となった。

     平成14年度(2002年4月〜2003年3月)のタックスアンサーの利用件数は1,703万件であり、このうち、インターネットによる利用件数は、1,633万件(表33参照)で全体の96%を占めている(図8参照)。

  3. (3) 納税者支援調整官

     税務行政に対する納税者の理解と信頼を確保するためには、納税者から寄せられた苦情に対しても、適切に対応することが不可欠であるとの認識の下に、苦情処理に当たっては、納税者の視点に立って、迅速かつ的確な対応に努めている。

     この苦情処理を専担する納税者支援調整官は、各国税局、沖縄国税事務所のほか、主要な税務署に派遣設置されており、税務一般に関する納税者からの苦情に関する事務のうち、当該納税者が適正かつ円滑に納税義務を履行するために必要な助言及び教示並びに調整に関する事務を行っている。