青山審議官
 私の方からは、最後の資料5というところに、「税務行政上の国際的課題への取組」という資料を付けさせていただいておりますので、説明をさせていただきたいと思います。
御案内のとおり、昨今の多国籍企業を中心とした、国境を越えた経済取引は、質、量ともに、大変な広がりを見せております。特にアジアの中国・インド等を中心としたマーケットの広がりということも一つのてこになっておりますが、これらを通じて、多国籍企業が国境を越えて、本社それから子会社、それから、場合によっては本店、支店、こういったものが多国間に分布するような形になってまいりますと、それぞれのユニットが上げた所得に対して、場合によっては同一の所得に複数の国で二重に課税するような事態が起こってまいります。これは何と申しましても、世界の投資、貿易の自由な交流を妨げるということでございまして、これの二重課税をスムーズに解消するというのが国際的な税務行政の大きな課題の一つということでございます。これは各国が締結しております租税条約でもってその救済のためのメカニズムが決められておりますが、私のところは、国税庁の中で、そのメカニズムに沿った国と国の間の二重課税の解消のための協議を担当する部署でございます。
そこに表を掲げておりますが、相互協議と申しておりますが、二重課税の問題が起こったときに、租税条約を締結している相手国との間で会議を持ちます。
 1枚繰っていただきまして、どのような形でその相互協議というのは始まるのかというのが、別紙に掲げてございます。これは、二国間の事前確認の仕組みを掲げさせて頂いておりますが、これは一方の国が課税をして、その課税によって発生する二重課税を解消するための相互協議と同じようなメカニズムですので、御覧いただきたいと思います。
 真ん中のところに、国税庁、外国税務当局との間で相互協議を行うとありますが、それぞれ日本の納税者、外国の納税者、これは通常、関連者でございます。先ほど申し上げました親会社、子会社あるいは兄弟会社、あるいは、場合によっては本店、支店という関係になります。一方の国の課税処分によって二重課税が発生するわけでございますので、納税者が、発生した二重課税をもとに、自国の税務当局に相互協議を申し立てます。下に流れが書かれておりますが、これはまず、事前確認の事案でございます。事前確認は、一番上の四角の中に囲ってございますが、二重課税事案の最も大きな要因であります移転価格課税に関して、「税務署長又は国税局長が、法人が採用する最も合理的と認められる独立企業間価格の算定方法及びその具体的内容等について、確認を行う制度」ということで、実は我が国が世界に先駆けて導入したもので、今や世界の先進国が、ほとんどこの事前確認という制度を導入しております。
 これにより、移転価格税制の適正、円滑な執行、移転価格課税に関連する企業の事務負担の軽減――これは課税を受けてから、その課税により発生する二重課税を解消するためのいろいろな手続をやるのは、なかなか大変でございます。この事前確認というのは、例えば将来、3年あるいは5年にわたって、関係者間での取引について、この価格、この所得配分で取引を行っていれば、両当局は国境を越えた不当な所得移転はないということを事前に確認するものでございますので、そこにございますように、企業経営の予測可能性が高まります。そういったことで、今、二国間の事前確認というものが納税者の間から非常に高く評価され、この手続が求められているところでございます。
 そこで、下の流れを御覧いただきますと、納税者にこの手続を申し立てていただきますと、それが適正かどうかを国税局で審査するような段取りになります。その審査が終わった後、国対国の協議に入ります。そして、国と国の間で合意ができますと、それに従った申告が、この事前確認の場合ですと、将来にわたってそれに基づく申告が行われますので、その申告をそれぞれの税務当局が年次報告書ということで、モニターしていくという形になります。以上のような手続についての納税者からの要望が、最近非常に多くなりました。
 1枚戻っていただきまして表を御覧いただきますと、相互協議事案の繰越件数という形で、過去3年間の推移を示しております。件数も急激に伸びております。その内訳ですが、APAというのが先ほど申し上げました事前確認の案件でございます。平成16年度末時点で、総計201件のうちの143件ということで、7割を超えている状況でございます。
 それから、APAの処理事案、地域別内訳というのを下に付けてございますが、この中身について見ますと、従来は、何といいましても、アメリカと日本の間が最も経済取引が多かったものですから、アメリカとの間の案件が多数を占めていたわけでございます。しかしながら、昨今のアジアとの取引の拡大を受けまして、御覧いただきますように、アジア・大洋州地域との件数が大きく増えております。
 このような相互協議をやるにつけましても、そこで尺度として使うルールは、国際的な共通ルールということになってまいります。もちろん、二国間条約が直接の物差しということになりますけれども、その二国間の租税条約の共通の物差しといいますか、共通のルールを定めていますのが、OECDの租税委員会が司っているOECDモデル条約というものでございます。国税庁では、財務省の主税局と共同し、そのルールづくりにも積極的に参加しております。
 そこで、本日は、こういった相互協議の中身につき、具体的な事案でもって、簡単に説明させていただきたいと思います。今日は3点ほど、事案を用意いたしました。
 3ページ、4ページを御覧いただければと思います。これは最近のAPA、つまり事前確認の事案を拾ったものでございますが、1番目が金融商品のグローバル・トレーディングに関するケースです。日本、A国、B国という3カ国がかかわった取引の事前確認でございます。このようなグローバル・トレーディングでは、例えば、A国のトレーダーが値決めを行い、取引の記帳はB国で行う。世界各地の金融機関の拠点で顧客向けの営業が行われ、最終的に日本の顧客で取引が成立するというケースがあります。この場合、世界各地の拠点がそれぞれの役割に応じて取引に関与しており、移転価格の観点から、各拠点が果たしている機能等に比して、過大なまたは過少な利益や所得配分が行われていないかどうか、十分に検討することが必要となってまいります。OECDでも、現在、このような取引に関して所得の配分をどうするかという議論が進行しておりますが、それぞれの拠点でかかった人件費等、それぞれの拠点の果たした機能を反映する「ファクター」で判断するというのが現在のルールになっております。それぞれの拠点で移転価格課税のリスクがあるため、多国間での事前確認を申し出るケースも多いわけでございます。このように3カ国がかかわってまいりますと、場合によっては三重課税という場合が出てきますし、また、逆に、この三つの国のどこも課税しない所得がエアポケットのように出てくる場合もございます。そういったことが起こらないようにということで、事前確認では、留意しながら事務を進めております。
 それから、二つ目は、グループ内役務提供取引に関するケースでございます。
 多国籍企業では、グループ全体の経営管理等を本社等が一括して担うことがございまして、移転価格の観点からは、グループ各社が、本社から受ける便益について適切な対価を支払うべきではないかということになってまいります。これまでは、日本から見ると、商流が大体、日本の本社を通って海外の顧客に行くということが多かったものですから、こういう役務提供に対する対価を別途徴収しなくても、物の取引価格の中に含ませて間接的に回収するということが可能でございました。ところが、本社が商流から離れる、いわゆる日本を離れて、国外の製造子会社から国外の販売子会社に直接物が流れるといったような、外−外取引が増加してきますと、有形資産の取引を通じて役務提供対価の回収が不可能になってきます。そのため、本社機能のうち、海外のグループ各社が便益を受けているものについては、その便益に対する正当な対価を海外のグループ各社が本社に支払っているかが、移転価格の観点から重要になってきます。これは、外国親会社、日本子会社というパターンでも同様に問題になるところでありますし、このような事案に関する二国間事前確認が最近散見されております。特に、最近は外国法人が我が国以外のアジア地域に統括会社を置こうという動きがあります。そうしますと、その統括会社がこのような役務提供サービスを果たすことになってきますので、今後、このようなグループ内役務提供取引の増加に適切に対処する必要があると考えております。
 それから、1枚繰っていただきまして最後の事例でございますが、三つ目は無形資産の譲渡取引に関するケースで、これは不適切な例を掲げております。我が国に研究開発機能を有する法人が、例えばタックス・ヘイブンなどの低課税国の国外関連法人に無形資産を譲渡し、後は、その無形資産を使った対価を我が国の法人がロイヤルティとして支払うような形に変わるというケースでございます。もし、我が国の法人が多額の繰越欠損金を抱えているとすると、無形資産に係る譲渡益課税による税額は発生しない一方、支払うロイヤルティは、将来にわたってずっと損金になりますので、いわば法人税負担の軽減が可能になってくるというようなことがございます。このような取引について、事前確認の申出が出てくるケースもございますが、一つは、適切な無形資産の譲渡の対価の算定は、なかなか難しいといった問題でございます。また、国外関係者が実質的に無形資産を管理していないような場合、いわば取引自体が名目的な取引で、無形資産の譲渡が真正と認められないケースもございます。このような取引については、慎重な判断が必要となりますので、我が国の税の不当な軽減を主要な目的とすると認められるような場合には、事前確認が仮に出てきましても、不確認あるいは相互協議終了という処理を行う場合がございます。
 以上3点、最近の代表的な例を申し上げました。
 最後に、1ページ目に戻っていただきまして、税務当局間の協力について、簡単に御説明させていただきます。
 まず、情報交換でございます。先ほど申し上げましたように、国境を越えた取引が増えてきますと、執行当局にとって何より重要なのは、納税者の国境を越えた取引についての情報でございます。この情報を執行当局間で交換し合うという必要性がどんどん高まってきます。平成15年の税制改正で、租税条約に基づいて相手国から情報提供要請があった場合には、自国に課税利益がなくても、情報交換に対応するために質問検査権を行使してもいいという立法がなされました。これが2003年4月から施行されています。この結果、我が国から迅速、的確かつ相手国のニーズに合った情報提供をすることが制度的に可能になりました。したがいまして、逆の意味で相互主義に基づき、各国からも同様の対応が期待できる環境になったわけでございます。
 なお、その情報交換に関しては、2005年に、OECDモデル条約の情報交換規定が改正され、租税条約に基づく情報交換の中に、一般情報だけではなく、犯則事件に関する情報も含まれることが明記されました。これらを背景としまして、今通常国会において、相手国の犯則調査に係る情報提供要請にも対応できるよう、租税条約の実施特例法の改正が予定されております。
 最後に、執行協力でございます。そこに書いていますように、全世界ベース、地域ベース、二国間ベースと、いろいろなベースで執行当局間の協力が進展しております。全世界ベースでは、OECD等を中心に、長官ベースから調査官ベースの会合までいろいろなレベルでの情報交換、あるいは執行の協力が進展しております。そこにありますように、7カ国税務長官会合、これはOECDの会合でございますが、それらを中心としたもので、その下の地域ベースの環太平洋税務長官会合というのも、これも先進国の会合でございます。先進国の長官会合については、今後ある程度整理・統合する方向が今出されつつあります。地域ベースでは、そこにありませんが、アジアの税務長官会合があります。全部で13カ国の長官によって構成されておりますが、そのほかに地域ベースでは、特に二国間ベースでは、最も強い経済的なつながりを持っています米国、それから中国、韓国等々との間でバイの会議を開催し、強い協調体制をとっております。
 最後に、アウトリーチ活動でございます。この執行協力は、知的支援ということで、最近、特にアジアを中心とした開発途上国の税務当局に対して、税務行政の効率化・近代化のための知的支援を積極的に展開しております。これは、その相手国にとっての税務行政の効率化にとり、大変メリットになるということで評価されており、一方、私どもにとりましても、国際的な課税問題の発生が未然に防止できるといったことですとか、先ほど申し上げました相互協議などが将来にわたって迅速に進展するのではないかといった副次的利益といいますか、追加的なメリットも期待されるところでございます。今後とも、これらのアジアを中心とした知的支援について、十分、力を注いでまいりたいと考えております。
 以上、私からの説明を終わらせていただきます。

会長
 ありがとうございました。
 それでは、ただいま御説明いただきました事項につきまして、御質問、御意見等がございましたら、御自由に御発言をお願いします。

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