1. 日時

平成16年4月21日(水) 15:00〜17:00

2. 場所

国税庁第一会議室

3. 出席者

  • (懇談会メンバー)
    • 跡田直澄、井岸松根、岡本 勝、奥村洋彦、神崎宣武、須磨佳津江、田嶼尚子、 田中利見、寺沢利雄、本間千枝子、御船美智子、矢島正見、山下友信(敬称略)
  • (国税庁)
    • 村上次長、寺内酒税課長、浜田鑑定企画官、若尾酒税企画官、 小森、亀井、本宮、前田、土屋(以上酒税課課長補佐)

4. 議事概要

 東京慈恵会医科大学内科学講座田嶼主任教授、独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター丸山院長及び厚生労働省から、「酒類と健康・疾病問題」に関する説明を受けた後、メンバーとの間で質疑応答等が行われた。概要は以下のとおり。

(1) 東京慈恵会医科大学内科学講座 田嶼主任教授

○内科疾患とアルコール

<説明>

  • ・ 酒は、「百薬の長」と言われ、適度な飲酒は健康に良いと言われているが、一方で「万の病は酒よりこそ起れ」とも言われるように、医学的な見地からは飲酒による内臓疾患等の問題があり、今こそお酒との賢い付き合い方が強く求められている。
  • ・ 飲酒の適量の一般的な目安として、日本酒1日1合(100%アルコール換算で23g)と言われている。また、1日当たり100%アルコール換算で約60g以上を5年以上飲酒していると臓器障害を起こすリスクが高まる。
  • ・ ただし、これらの数値はあくまでも平均的な目安であり、アルコール代謝には個人差があるので、オーダーメイドの適正飲酒が必要である。

<質疑応答等>

  • ・ 適量のアルコールを数日間摂取する場合と一度に大量に摂取する場合とでは、危険度はどうか。
    ⇒ 疾患の種類によって異なると考えられる。糖尿病は、一度に大量に摂取すると高血糖になる上、その後遷延性の低血糖を起こすことがある。肝臓疾患については、飲酒量と年数等が大きく影響すると考えられる。
  • ・ 一人一人の適量というものを客観的に知ることはできるのか。
    ⇒ 個人の適量を測ることは非常に難しい。最近では遺伝的な解析が行われ始めているので、将来は本当の意味でのオーダーメイドの適正量が明らかにされるのではないか。
  • ・ 適量は、一般的な平均体型で考えると1日1合ということか。
    ⇒ 適量は、正確には体重当たりどのくらいと出すべきであろうが、多くの臨床データ等を検証した結果、一日当たり100%アルコール換算で20〜30グラムとされている。

(2) 独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター 丸山院長

○アルコール関連問題の現状と課題

<説明>

  • ・ 未成年者の飲酒は、1急性アルコール中毒の危険性が高い、2依存がより早く進行する、3他の薬物への入口となる、4危険な行為に走りやすくなる、等の問題がある。
  • ・ 平成11年の数字では、大量飲酒者(日本酒換算で1日平均約5合半以上飲む人)は227万人と推定されるが、医療を受けているアルコール依存症患者は2万人弱と非常に少ない。このことにより医療機関で受診していないアルコール依存症患者が非常に多く存在すると推定される。実際に、「総医療費」に占める「飲酒に起因する医療費」の割合が約7%を占めるという調査結果と、一般病院における入院患者の14.7%が過剰飲酒により症状の悪化を来たしているという報告がある。
  • ・ 妊婦の20%近くが飲酒しており、その率は増加している可能性がある。また、わが国のFAS・FAE児(※)の特徴としては、1成長遅滞は軽度だが改善しにくい、2顔面の特徴は見逃されやすい、3中枢神経系の障害では多動や言語発達の遅延した軽度の知能障害が多い、が挙げられる。
    • ※  FASとは胎児性アルコール症候群 (Fetal Alcohol Syndrome)のことで、妊婦のアルコール摂取によって引き起こされる胎児の神経系脳障害の一種。またFAEとは、不完全型の胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Effect)のこと。
  • ・ アルコール依存症家族のドメスティックバイオレンス(DV)被害の発生割合は、一般人口に比し予想以上に高く、その相対危険率は5-10倍に及ぶ。また、アルコール依存症の高い有病率から考えて、DV問題の予防・対策にはアルコール関連問題対策が必須である。

<質疑応答等>

  • ・ 前頭葉が発達しないとコミュニケーションに問題が生じることが、様々な事件に関連して指摘されているが、それは飲酒とも関係があるのか。
    ⇒ アルコールにより脳の萎縮、特に前頭葉、小脳の萎縮は著明に見られるため、飲酒による影響はあるものと考えられる。
  • ・ アルコールが体によくないということを若者に説得する場合、どのような方法が効果的か。
    ⇒ 体、特に、脳、生殖器、骨に及ぼす影響を説明するのが非常に効果的である。
  • ・ アルコール依存症患者を日々現場で見る立場から、どのような政策的措置が必要だと考えるか。
    ⇒ 第一次予防のための教育が必要だが、医療の現場から見て、多くのアルコール依存者について治療がなされていない現状からは、早期発見、早期治療という第二次予防の構築も必要だと思われる。

(3) 厚生労働省(説明者:厚生労働省健康局総務課 大江生活習慣病対策室長)

○アルコール関連問題等に対する取組の現状と課題

<説明>

  • ・ 「健康日本21」(平成12年3月厚生労働省)では、アルコール分野について、「多量に飲酒する人の減少」、「未成年者の飲酒をなくす」及び「節度ある適度な飲酒の知識の普及」の3つの目標が掲げられている。
  • ・ 「健康日本21」の施策として、保健指導マニュアルを作成し実際の指導に役立てている。

<質疑応答等>

  • ・ 未成年者へのアルコール関連問題の教育は、学校が一番コンパクトに教えられる場というのは確かであるが、むしろ家庭・地域における教育の方が効果的ではないか。
    ⇒ 今後、地域、家庭、ITなどいろいろなチャネルを使って普及・啓発を進めていきたい。
  • ・ 最近、メンタル面の病気が問題となっているが、メンタル面の病気とアルコールとの関連について、国として対策を立てているか。
    ⇒ 「健康日本21」では、1つの柱として休養を掲げており、心の問題も重要な課題であると考えている。
  • ・ たばこでは、既にパッケージに肺がんの発症危険性等を書くことになっているのだから、ここまでアルコールの害がはっきりしている以上、お酒についても、大量飲酒の危険性を記載するなど、そろそろ前に進む議論をしなければいけない時期にきているのではないか。各省庁が協力して、未成年者の飲酒をなくすという政策目標に本気で取り組むべきではないか。

(注) ⇒は、メンバーからの質疑に対する説明者からの回答である。

(以上)