別紙

1. 環境変化を踏まえた将来の酒類業の姿は

(1) 酒類の4つの特性とその変化とは

 酒類の特性については、文化、地域社会の有り様までにも関係

  1. イ 嗜好品である
     酒類以外の嗜好品も多くなっているが、酒類は様々な嗜好品の中でも多くの消費者に選択されているもの
  2. ロ 文化・伝統性を有する
    • ・ 「食文化」と関わりの深い伝統性を有する飲料
    • ・ 食文化とのつながりが希薄化
    • ・ 酒の文化・伝統性を国民や諸外国に対し、どう訴え得るかが課題
    • ・ 酒類のメリットを活かしデメリットを十分認識した飲み方の啓発、プラスの飲酒教育の必要性
  3. ハ アルコール飲料である(致酔性、習慣性がある)
    • ・ 酒類は致酔性飲料であり、事件、事故、トラブルの原因
    • ・ 過度の飲酒が、医療費等を通じて社会的コストの増につながることを認識
    • ・ 酒類は未成年者の興味を引きやすい飲料
    • ・ 近年の一般商品化、購入アクセスの容易化は、未成年者の飲酒問題に一層の配慮を求める必要性を拡大
    • ・ 酒類を飲む場が家庭外、仲間内へと変化し、地域社会の関わりも希薄なり、未成年者飲酒問題等が拡大
  4. ニ 課税物資である
    • ・ 租税収入に占める酒税収入の割合は、依然として財政上重要な地位
      • (注) 酒税収入は約1兆7千7百億円(平成13年度決算額)
         租税収入に占める割合は約3.5%(同上)
    • ・ 酒税相当額は預かり金的な性格を持つ
    • ・ 免許制度(製造、販売)は、酒税負担の消費者への円滑な転嫁、回収確保のシステムである

(2) 酒類を巡る変化(消費・供給・商品)について

 酒類を巡る環境は、大きく変化、新しい問題を惹起

  1. イ 消費面での成熟化
    • ・ 成人一人当たりの飲酒量が減少、酒類間の盛衰が激しい
    • ・ 成人人口の増加などによって、全体としては横バイ
  2. ロ 供給面での変化
    • ・ 消費量が横バイであるのに対し、生産力及び供給力が過剰の状態
    • ・ 酒類業者及び商品の退出入(流動化)が激しい
    • ・ 酒類の輸入量の増加
    • ・ 今後更にボーダーレス化による商品の多様化・低価格化が進行
    • ・ 製造者や酒販店の大幅な退出入
      • (注) 清酒免許場数2,490場(平成3年3月末)→2,238場(平成13年3月末)
    • ・ 小売段階では酒類小売業免許の規制緩和に伴い新業態店が大幅に増加、一般酒販店は大幅に退出
      • (注)
        1. 1 小売免許の新規付与件数約13,900場(平成10年度〜12年度)
        2. 2 コンビニエンスストア及びスーパーマーケットの63%が酒類を販売
  3. ハ 市場面での変化(激しい価格競争・広告宣伝・販促活動など)
    • ・ 小売市場においては、酒販店数、特に新業態店の増加により、顧客獲得のための低価格競争が激しく、メーカー希望小売価格に対する実売価格の割合がビールで70%、しょうちゅう甲類で51%となっている例
    • ・ 料飲市場についても大きく変化
    • ・ 酒類を飲む場が家庭外、仲間内での飲酒へと変化
    • ・ チェーン組織の料飲店を中心に、酒類の提供価格の低廉化競争が激しい
    • ・ 消費は宣伝量の多い、価格の安い酒類にシフト
    • ・ 特性のある商品ではないとの認識の業者が増加
  4. ニ 商品の変化について
    • ・ 酒類の多様化、ライフサイクルの短縮に伴い分かりにくい商品が増加
    • ・ 商品特性や品質の消費者への訴求力が低く、パッケージも酒類らしくないものも多い
    • ・ 酒類が一般商品化し、未成年者だけでなく消費者全般に特殊な飲料ではないとの意識が拡がり様々な問題

(3) 酒類業の特性とは

  1. イ 伝統性、地域性がある
    • ・ 伝統文化、食文化としての意味合いからも捉え、地域性を活かした個性のある商品を提供(地域へ還元)していくことが必要
    • ・ 現在の情報発信力では十分でない
  2. ロ 中小企業が多い
    • ・ 中小企業経営革新支援法において、清酒製造業及び酒類卸売業が特定業種に指定。現在、経営基盤の強化のための各種事業に取り組んでいる
    • ・ 起業家としての個々の取組みが求められている
  3. ハ  課税物資の取扱者である
    • ・ 酒類業者は、酒税の円滑な転嫁、回収を図る観点から免許業種とされており、役割は今後も重要

(4) 酒類業のあるべき姿について

  1. イ 酒類業に対する社会的要請
    • ・ 免許制度は酒税確保を目的
    • ・ これまで酒類業の責任は課税物資であること、つまり酒税の確保に集約
    • ・ 近年は広く社会的要請への取組みが求められている
  2. ロ 酒類業のあるべき姿(8つの課題)
    • ・ 今後の酒類業は、競争により効率性を確保
    • ・ 酒類の特性の変化、今日の社会的要請を踏まえて商品・サービスを提供して、消費者に訴えていく透明度の高い事業を展開していく必要
    • ・ 社会的要請へのバランスの取れた対応は十分取れていない。8つの課題に対処し得るシステム作りを検討する必要
      1. 1 消費者の利便性の更なる確保
      2. 2 安全で品質の高い酒類の供給、消費者に分かり易い表示を含めた情報の消費者への積極的な提供
      3. 3 マナー広告の実施、飲酒教育、啓発
      4. 4 公正な競争の確保のための指針、酒類ガイドラインの遵守等による自由かつ公正な取引の確保
      5. 5 効率的な事業経営と酒税の確保
      6. 6 未成年者の飲酒防止
         酒販店と料飲店の両方を視野に入れる必要
      7. 7 飲酒に起因する各種の事件、事故、健康障害の発生防止
      8. 8 リサイクルに関する責任の遂行

(5) 国税庁等における酒類行政の運営体制の整備

  1. イ 国税庁においては、酒税確保を中心とした事務運営から消費者利益の確保及び酒類業の健全な発達のため、酒類行政を広く捉えてその運営体制の一層の整備を進める必要
  2. ロ 関係各省庁における現在の連絡協調体制を更に充実、政府全体での行政運営の機動性、実効性を確保するよう努めるべき

2. これまでの規制緩和等の評価について

(1) 新規参入による消費者アクセスの増加、市場の活性化

  1. イ 消費者の利便性の増大
     平成10年度以降、規制緩和推進3か年計画(閣議決定)に基づき、5年間で段階的緩和を実施
  2. ロ 市場の活性化
    • ・ 小売市場への新規参入、特に新業態店の大幅な参入増加により、市場はかつてなく活性化
    • ・ 宅配、品揃え、ITの活用等により商品や地域性での個性化を活かし、消費者サービスの向上が図られていることは評価
    • ・ 価格面でも競争が進んでいることも評価
    • ・ 一方、次のような問題が生じてきている
      • ・ 不当廉売や差別対価等に繋がるような多額で不透明な値引き・リベート等の動き
      • ・ 競争に参加もできずに退出する一般酒販店が増大
      • ・ 急激・過度の参入による乱売等の競争の弊害
      • ・ 酒類の商品特性に配慮した実効性のある販売管理体制が取られなくなる懸念

(2) 公正取引問題、未成年者飲酒問題への取組みの推進

  1. イ 公正取引問題への取組み
    • ・ 不当廉売、差別対価等があると考えられた販売場を中心に取引実態調査を実施
    • ・ 平成12事務年度においては、合理的な価格の設定がなされていないと考えられた販売場は調査実施場数の91.7%
    • ・ 公正な取引の確保のための政府における取組み
    • ・ 価格・販売・商品開発競争は市場原理に任せるとしても、取引自体は公正であるべき
    • ・ 一層の実効性ある対応が競争政策当局に求められる
  2. ロ 未成年者飲酒問題への取組み
    • ・ 月1回以上飲酒をする者の割合は、高校3年生男子の49.9%
    • ・ かなりの子供(飲酒年齢の低年齢化が進んでいるとの指摘がある)が酒類を飲んでいるという現状を認識すべき
    • ・ 政府においては、未成年者の飲酒防止のための取組み等を行ってきている
    • ・ 未成年者飲酒防止の実効性確保に向けた取組みは近年目覚しいものがある
    • ・ 飲酒ぐらい大目に見てもという社会的風潮や販売管理面でのルーズさもないとはいえず、国民的問題喚起が十分にできているとは言い難い

(3) 評価と今後の課題

  • ・ 数次の規制緩和により、消費者利便は確実に拡充、市場の活性化が進んでいると高く評価
  • ・ 未だ新規参入希望者は多く、規制緩和は着実に実施されて然るべき
  • ・ 適切な酒類販売についての社会的要請が高まっている
  • ・ 平成15年9月以降について人口基準を廃止することは決定されているが、その後の酒類小売業免許の運用のあり方についての検討が各方面から求められている

3. 酒類小売業に関わる今後必要な手当て等について

(1) 消費者の利便性の確保等の観点

  • ・ 今後も規制緩和を着実に進めていくことが必要
  • ・ 飽和状態と考えられる地域も存在する
  • ・ 一方で、新規参入希望が依然として多い地域がある
  • ・ 規制緩和、新規参入を考える上で「地域」の状況を踏まえる必要がある

(2) 消費者ニーズ、情報の提供、飲酒教育等の観点

  • ・ 品質の維持、安心の観点から情報を消費者に的確に提供することが必要
  • ・ 消費者のニーズは、価格、品揃え、配達、情報、開業時間と様々
  • ・ 小売業者は、消費者のニーズを的確に把握し、これに応えていく必要
  • ・ 製造者は、安全性に万全を期し、商品の品質・特色などの情報を、多様な手段により、積極的に消費者へ提供、消費者の的確な商品選択に資することが重要
  • ・ 今後、商品情報の提供が消費者とのコミュニケーションの有効な手段として充実されるべき。TVコマーシャルについてはマナー広告の実施、ラベルやパンフレット等については更なる表示の適正化、小売業者への情報の適切な提供等、十分な配慮が求められる
  • ・ 国民全般に対して、アルコールが身体に与える影響等の適切な情報の提供による啓発の充実など飲酒教育の充実を図ることが必要

(3) 公正取引の観点

  • ・ 不当廉売、差別対価等のおそれがあると思われる取引の存在。そのことが酒類業界全体ひいては消費者利益にも反することとなる点を認識
  • ・ 公正取引への取組みの必要性をより啓発
  • ・ 実効性確保の観点から、独占禁止法に関わる違反行為に対するペナルティを検討すべき
  • ・ 各企業で不当なリベートの供与・差別的な取扱いを行わない旨を公式に表明し、毎年その結果及び評価を自主的に公表するなどにより透明性を高めその実効性を担保すべき

(4) 酒税確保の観点

  • ・ 今後の酒類小売業免許の運用において、原則として、人的・設備要件を満たせば小売業への新規参入を認めることが適当
  • ・ 特殊酒類小売業免許は、社会的要請を満たした上で一層の緩和と制度の簡素合理化を進める必要
  • ・ 多数の小売業者の経営が大きく損なわれれば、酒税の回収確保上問題が発生するおそれ
  • ・ 必要最小限の対処措置として、酒類市場を継続的にモニタリングし、地域や期間を限定した上で、事後的に是正のための臨時の需給調整措置を検討する必要

(5) 販売管理等の観点(8つの手当て)

  1. イ 酒類については、品質の維持、安全性の観点を含め適切な形で販売されるべきものであり、販売管理は消費者利益の増進に寄与するもの
  2. ロ 未成年者飲酒防止等については、販売管理体制に関する法的枠組みがない
     是正を求める手段としてはあくまでも行政指導
     実効性の確保の点で不十分
  3. ハ 以下の手当てを検討
    1. 1 販売管理上の要件整備(ミニマムリクエスト)
      • ・ 売場での酒類と他の商品の完全な分離・陳列
      • ・ 適切に販売管理を行える者の配置
      • ・ ガソリンスタンド等での酒類の販売制限
    2. 2 自動販売機の撤廃
      • ・ 目標時期を明確にした従来型自動販売機の完全撤廃、改良型自動販売機への移行。より長期的には自動販売機そのものを撤廃
    3. 3 小売業者(従業員を含む)に対する酒類に関する研修の実施
    4. 4 リサイクル関係施策の充実
    5. 5 免許の人的要件の整備等
    6. 6 免許の目的の見直し等
      • ・ 社会的要請を踏まえた免許の目的の見直し
      • ・ 更新制の導入等
    7. 7 販売管理のモニタリング
      • ・ 行政が地域毎の市場の動向、販売管理等の実態を把握し、モニタリングするための体制の整備
      • ・ モニタリングは、酒類小売業としての適切性を判断するために効率的に行う必要があるが、人口基準の廃止により、酒類の販売量が極めて少ないと見込まれる者も多数免許申請をしてくるものと思われる。価格や売場などの市場環境が大きく変化している現状を踏まえ、当分の間の措置として、上記の要件等に販売量の最低基準等の要件を加えることが適当
    8. 8 小売酒販組合の活性化、役割の発揮

(6) 15年9月以降の酒類小売業に関するスキーム

  1. イ 平成15年9月に向けて、必要な手当てを整理し、人口基準廃止以降の酒類取引の適正性や販売管理体制などの適切性を確保するための措置の整備を段階的に進めることが必要
  2. ロ 安易に法的規制によることなくできるだけ自主的な取組みによる必要があることに留意すべき

4. 酒類(小売)業の健全な発達のための取組み

  1. イ 酒類業の健全な発達とは、個々の企業においては、消費者ニーズや社会的要請に適切に対応することにより適正利潤を確保し、もって酒類業全体として効率化・高度化が図られること
  2. ロ 酒類小売業においては、消費者ニーズや社会的要請に的確に対応するとともに、取引・販売環境の整備に努める必要
  3. ハ 行政においては、小売酒販組合、独立行政法人酒類総合研究所等と協力して、以下のサポートが求められる
    1. 1 飲酒教育・啓発についての情報発信への助言
    2. 2 未成年者飲酒防止対策についての指導・助言
    3. 3 活性化事業(酒類の販売技術・ノウハウの構築、情報ネットワーク化等)の推進
    4. 4 専門知識、販売サービスの研修

5. 終わりに

  1. イ 酒類業の特性、社会的な要請の高まり、規制緩和についての評価を踏まえると、新しい時代の社会的要請に応え得る酒類業のフレーム作りが喫緊の課題
  2. ロ 本意見を参考に諸手当てを速やかに検討し、必要な法令、通達等について手当てを進めることを望む