14.7.17

酒類販売業等に関する懇談会とりまとめ
(案)

はじめに

 当懇談会は、国税庁審議官が主催する懇談会として昨年12月に発足した。酒類及び酒類業を取り巻く環境の著しい変化は、日常生活においても身近に感じられるところであろう。
 酒類は、その特性で述べるように、我が国社会文化と様々な側面で関わっており、社会経済の変化に応じた取扱いを不断に検討することが必要である。地域コミュニティの意識や家族の絆の希薄化といった社会の変化の影響もあろうが、近年における酒類の一般商品化やアクセスの容易化、商流の変化による激しい販売競争などが、消費生活にどのように影響を及ぼし、例えば、未成年者の飲酒問題などのコストを発生させているか。改めて酒類のメリットを活かし、国民生活の潤滑油として活用できるよう社会全体に目を配った検討が求められている。
 本懇談会は、こうした問題認識の下、酒類業の将来像を考え、なかんずく近年社会的に大きく取り上げられている未成年者の飲酒防止対策を含めた酒類の販売管理などの社会的要請への取組み手法や酒類小売業免許のあり方について検討した。また、酒類業の健全な発達のための取組みについて言及した。

1. 環境変化を踏まえた将来の酒類業の姿は

(1) 酒類の4つの特性とその変化とは

 環境の変化を踏まえ、改めて酒類の特性について認識する必要があるが、その論点は裾野が大きく広がっており、文化、地域社会の有り様までにも関係している。

  1. イ. 嗜好品である
     酒類は代表的な嗜好品とされる。昔から「酒は百薬の長」と言われ、飲酒の効用として、ストレスや疲れの解消、人間関係のコミュニケーションの潤滑油、仲間との連帯感醸成ができる等が言われている。
     他方、食生活において多様な飲食料品が消費されるようになり、酒類以外の嗜好品も多くなっているが、酒類は現在でも様々な嗜好品の中から多くの消費者に選択されているものということができる。
  2. ロ. 文化・伝統性を有する
    1. (イ) 酒類はその国の「食文化」と関わりの深い伝統性を有する飲料であるとされる。しかし、食べながら飲むことや地酒(地域性のある飲料)と食文化とのつながりがあることへの認識が希薄化していないか。外国のレストランで日本食と日本酒がセットでブームになっていると聞いてなるほどと思う人は多いだろうが、国内ではあまり認識されていない。
    2. (ロ) 今日、社会経済のボーダーレス化の中で酒の文化(食と共に)・伝統性(種類や飲み方)を国民や諸外国に対し、どう訴え得るかが課題になっているが、こうした視点はまだまだ弱い。
    3. (ハ) 食生活の向上に伴い、酒類は日常的な飲料となった。日常的となれば、これまでの食との繋がりや家庭内で飲むといった条件付けは存在せず、改めて酒類のメリットを活かしデメリットを十分認識した飲み方を啓発する、プラスの飲酒教育の必要性が飛躍的に拡大していることとなる。
    4. (ニ) 地域社会の有り様に関わるが、かつては地域毎に特色のある酒類が生産され、かつ、お屠蘇はその一例であるが、祭りやハレの日に飲むことで飲酒文化が育ち、「飲酒教育」があった。今後においても文化・伝統性を認識することで無茶飲み(一気飲み、アルコール依存)の抑止の効果が期待できるのではないか。
  3. ハ. アルコール飲料である(致酔性、習慣性がある)
    1. (イ) 酒類は致酔性飲料であり、これまでも過度の飲酒、販売姿勢等は事件、事故、トラブルの原因として事が起きる度に問題視されてきた。
       過度の飲酒を助長することが、習慣性→依存性→健康への影響(生活習慣病の発症)=医療費等を通じて社会的コストの増につながることを認識する必要がある。
      • (注) 「我が国のアルコール関連問題の現状」(厚生省保健医療局精神保健課監修)によれば、我が国のアルコール関連問題の社会的費用( 1987年)は約6兆6千億円と推計されている。
    2. (ロ) 酒類は大人の飲み物等として未成年者の興味を引きやすい飲料である。そこには背伸びする=大人のイメージ、ファッション性が誘因としてある。近年の購入アクセスの容易化、一般商品化は、未成年者の飲酒問題、また、健康への影響の問題に一層の配慮を求める必要性を拡大させている。
    3. (ハ) 酒類を飲む場が家庭内から家庭外、職場の関係から仲間内になり、また、ロで述べたように酒の飲み方の文化も大きく変化している。その中で、地域社会の関わりも希薄になり、未成年者飲酒問題をはじめ様々な問題を拡大させている。
       過度の飲酒が問題視されるのは、飲酒した本人に止まらず、その周辺の者や、全く関係のない第三者にまで影響を与えることにある。
  4. ニ. 課税物資である
    1. (イ) 清酒の酒税負担率(酒税額÷メーカー希望小売価格)は昭和25年が約77%、平成14年が約18%、ビールは昭和25年が約77%、平成14年が約46%(平成14年は消費税を含む。)となっている。また、租税収入に占める酒税収入のウェイトは低下しているが、依然として財政上重要な地位を占めている。
      • (注) 酒税収入は平成12年度決算額で約1兆8千2百億円
         租税収入に占める酒税収入の割合は平成12年度決算で約3.4%
    2. (ロ) 酒税の納税義務者は製造者であるが最終的には消費者に負担を求めることが予定されており、販売価格に含まれる酒税相当額は預かり金的な性格を持つ。酒税負担の消費者への円滑な転嫁、回収確保のシステムである免許制度(生産・流通)は今後とも重要と考える。

(2) 酒類を巡る変化(消費・供給・商品)について

 酒類を巡る環境は、以下で見られるとおり大きく変化しており、このような変化が新しい問題を惹起している。

  1. イ. 消費面での成熟化
     酒類の消費量については、成人一人当たりの飲酒量が減少し、また、酒類間の盛衰が激しいものの、成人人口の増加などによって、全体としては横バイの状況にある。
    • (注) 酒類の消費量の変化
      1. 1  成人一人当たりの飲酒量は減少(平成7年度→平成12年度)している。
         実数ベース 100.0リットル→95.5リットル(0.5リットル、4.5%減)
         純アルコール換算ベース 8.7リットル→8.3リットル(0.4リットル、4.6%減)
      2. 2 他方、成人人口の増加により、総量は横バイを維持。今後人口が減少に転じると総量自体も減少すると見込まれている。
        成人人口96,047千人→99,678千人(平成8年3月→平成13年3月)
        (3,631千人、3.8%増)
        消費量 9,603千kリットル→9,520千kリットル(平成7年度→平成12年度)
        (83千リットル、0.9%減)
      3. 3  酒類間の選好・盛衰の変化が著しい。
        • 消費量の変化(平成7年度→平成12年度)
          • 清酒  1,262千kリットル →977千kリットル
            (昭和50年度をピークとしてその58%に減少。)
          • ビール 6,744千kリットル →5,185千kリットル(5年で23%減少)
          • 果実酒 144千kリットル → 266千kリットル(5年で約2倍)
          • リキュール類  222千kリットル → 381千kリットル(5年で約2倍)
          • 発泡酒  194千kリットル  →1,574千kリットル(5年で約8倍)
  2. ロ. 供給面での変化
     このように酒類市場では消費量が横バイであるのに対し、過去の積極的設備投資等による生産力及び供給力が過剰の状態にあり、また、酒類業者及び商品の退出入(流動化)が激しくなっている。
    1. (イ) 酒類の輸入量の増加
      現在、酒類の輸入量になんら制限はなく、低価格の外国産ワイン・しょうちゅう甲類の輸入量が増加している。今後更にボーダーレス化による商品の多様化・低価格化が進むものと思われる。
      • (注) 課税数量に占める輸入酒の割合(平成12年度)
         ワイン 約62%(主な輸出国:フランス、イタリア)
         しょうちゅう甲類 約14%(主な輸出国:韓国)
        (参考) 清酒の輸入量150リットル(約0.02%)(主な輸入国:韓国、オーストラリア)

      このように酒類の供給過剰は、製造業の供給力過剰に加えて、国際化(輸入量の増加)も要因の一つである。

    2. (ロ) 製造者や酒販店の大幅な退出入
      製造段階では清酒製造者が大幅に退出し、平成6年より地ビール製造者が多数参入している(既に地ビール製造者の退出も始まっている)。
      • (注) 退出入の状況
        • 清酒免許場数 2,490場(平成3年3月末)→2,238場(平成13年3月末)
        • 地ビール免許場数 263場(平成12年3月末)→237場(平成14年3月末)

        総需要量の横バイ、供給力の過剰に伴い、シェア獲得のための広告宣伝、販促活動等の激しい競争に加え、値引き、リベート等の供与による商流の奪い合い(新業態店及びチェーン化された料飲店等)が激しくなってきている。

      • (注) 新業態店とは、スーパーマーケット、コンビニエンスストアのほか、酒類、薬品、家庭電化製品、ホーム用品等の量販店をいう。
        小売段階では酒類小売業免許の規制緩和に伴い新業態店が大幅に増加する一方で市場の変化が激しいため、一般酒販店は大幅に退出している。
      • (注)
        1. 1 一般小売免許の新規付与件数  約13,900場(平10年度〜12年度)
          一般小売免許の取消・消滅件数 約9,600場( 平10年度〜12年度)
        2. 2 平成13年3月末の小売免許場数(全酒類)は、平成8年3月末に比べ、コンビニエンスストアは約1万件、スーパーマーケットは約4千件増加している。
           なお、主要コンビニエンスストア及び主要スーパーマーケットの免許取得率はいずれも約63%(平成14年、醸造産業新聞社調べ)である。

      卸売段階においては取引先の維持及び新たな取引先獲得のため、激しい競争を進めており、地方卸売業者の転廃業、大手卸売業者との業務提携などが多数に上っている。

  3. ハ. 市場面での変化(激しい価格競争、広告宣伝、販促活動など)
    1. (イ) 小売市場においては、酒販店数、特に新業態店の増加により、顧客獲得のための低価格競争が激しくなっている(安売り訴求のチラシの配付、酒類売場の様変わり、酒類が目玉商品化)。
       小売市場における低価格競争の結果、極端なものでは、メーカー希望小売価格に対する実売価格の割合がビールで70%、しょうちゅう甲類で51%となっている例がある((株)チラシレポート社における市場価格調査(平成14年4月))。
       また、外資系大規模小売業が進出してきており、酒類の小売市場はもちろん卸売業者、製造者も巻き込んだ激しい競争が予想されている。
    2. (ロ)  料飲市場についても大きく変化しており、例えば、外食産業の発達等により、酒類を飲む場が家庭内から家庭外、職場の関係から仲間内へと変化してきている。また、チェーン組織の料飲店を中心に、酒類の提供価格の低廉化競争が激しくなっている。
    3. (ハ) 一方、特に大手製造者においてシェア獲得のための消費者向けの広告宣伝、販促活動が激しくなっており、こうした激しい競争は消費者の商品選択に大きく影響し、結果として消費は宣伝量の多い、価格の安い酒類にシフトしている。
    4. (ニ) ここで注意すべきは、規制緩和の進展により特に小売段階において、酒類は単に数ある商品の中の一つにすぎず、必ずしも特性のある商品ではないとの認識(一般商品化)の業者が増加していることである。この点は販売管理面で検討する必要がある。
  4. ニ. 商品の変化について
     酒類の多様化、ライフサイクルの短縮、一般商品化が大きく進んでいる。
    1. (イ) 酒類の多様化、ライフサイクルの短縮に伴い分かりにくい商品が増加しており、 また、商品特性や品質の消費者訴求力が低く、パッケージも酒類らしくないものが販売されている。品質の高い酒類を消費者に分かりやすく説明して供給するという製造者や酒販店の役割が十分発揮できていないのではないか。
       また、価格訴求力を活かした商品のウェイトが大きくなっている(例えば、発泡酒は、平成7年度に酒類全体の消費量の約2.0%であったものが、平成12年度では16.5%を占めている。)。
    2. (ロ) 新業態店を始めとする酒販店の増加及びアクセスの容易化などにより、酒類が一般商品化しつつある。このため、未成年者だけでなく消費者全般に酒類は販売管理の必要な特殊な飲料ではないとの意識が拡がり様々な問題が生じてきている。
       なお、低アルコールかつ低価格の発泡酒、チューハイ等の開発は未成年者飲酒を助長しているとの指摘があるが、商品開発の問題ではなく提供・販売の管理の問題である。

(3) 酒類業の特性とは

 酒類業は、これまでは伝統性、地域性、中小企業性などが強調されてきた。今後これらの特性を酒類業に対する要請などにどのように活かしていくかが課題となっている。

  1. イ. 伝統性、地域性がある
     酒類の主な原材料は穀類、果実等の農産品及び水で、元々は国内産品が中心であった。
     ことに清酒製造業等は、我が国の伝統文化、食文化としての意味合いからも捉え、地域性を活かした個性のある商品を提供(地域へ還元)していくことが必要であるが、現在の情報発信力では十分でない。
  2. ロ. 中小企業が多い
    酒類業界は、製造販売各層共に少数の大企業と大多数(90%超)の中小企業で構成されており、高コスト構造の改革、近代化の推進が喫緊の課題とされて久しい。
     これまでも各酒類業界において中小企業近代化促進法に基づく近代化、構造改善事業に取組んできており、中小企業経営革新支援法においても清酒製造業及び酒類卸売業が特定業種に指定され、現在、経営基盤の強化のための各種事業に取り組み(清酒製造業)、あるいは計画を策定している(酒類卸売業)ところである。なお、産業全体での取組みに加え、起業家としての個々の取組みが求められている。
  3. ハ. 課税物資の取扱者である
     酒類業者は、課税物資である酒類の生産、流通に携わる者であり、酒税の円滑な転嫁、回収を図る観点から免許業種とされているが、こうした役割は今後も重要であると考える。

(4) 酒類業のあるべき姿について

  1. イ. 酒類業に対する社会的要請
    1. (イ) 免許制度が酒税確保を目的としていることに表されるように、これまで酒類業の責任は課税物資であることに集約されて考えられてきた。しかし近年は様々の観点から広く社会的要請からの取組みが求められている。
    2. (ロ) ここで酒類の特性等を踏まえた酒類業に対する社会的要請を改めて例示すれば、
      1. 1 酒類の品質・安全性の確保、情報の提供、
      2. 2 酒類の広告についてマナー広告の実施等による飲酒教育、啓発、
      3. 3 自由かつ公正な取引の実現、
      4. 4 効率的な事業経営及び酒税の確保、
      5. 5 未成年者の飲酒防止、
      6. 6 飲酒に起因する各種の事件、事故、トラブル、健康障害の発生防止、
      7. 7 リサイクル社会への貢献
        などである。
      • (注) なお、ここにいう「社会的要請」については、経済的な側面からの要請も含むより広い意味合いで使っている。
  2. ロ. 酒類業のあるべき姿(8つの課題)
    1. (イ) 今後の酒類業は、商品・サービスについての市場原理による競争により効率性を確保しつつ、これと酒類の特性の変化や今日の社会的要請を踏まえて商品・サービスを提供して、消費者に訴えていく透明度の高い事業を展開していく必要があると考えられる。
    2. (ロ) しかし、現状は、上記で見た市場の成熟化、アクセス機会の拡大等により激しい競争が価格面を中心に繰り広げられており、上記の社会的要請全般へのバランスの取れた対応は十分取れていないと言わざるをえない。その代表が主に販売の側面であるが未成年者の飲酒防止に資する販売管理体制の整備の面であろう。
       そのため、それが可能となるよう、上記の7つの社会的要請に加え消費者利便の確保も含めた酒類に係る8つの課題を果たし得るシステム作りを検討する必要がある。
      1. 1 市場の活性化を通じた消費者の利便性の更なる確保
      2. 2 消費者ニーズに応えた商品(安全で品質の高い酒類)の供給と、表示の適正化(消費者に分かり易い表示)を含めた情報の消費者への積極的な提供
      3. 3 マナー広告の実施など飲酒教育、啓発
      4. 4 公正な競争の確保のための国税庁の指針や不当廉売、差別対価等への対応についての公正取引委員会の酒類ガイドラインの遵守等による自由かつ公正な取引の確保
      5. 5 生産の効率化、流通コストの縮減等効率的な事業経営と酒税の確保への貢献
      6. 6 未成年者の飲酒防止
         酒類の販売管理のあり方を考える際に、行政の所管の関係で対応に温度差が生じないよう酒販店と料飲店の両方を視野に入れる必要がある。
      7. 7 飲酒に起因する各種の事件、事故、トラブル、健康障害の発生防止
      8. 8 リサイクルに関する責任の遂行
        • (注) 「3.酒類小売業に関わる今後必要な手当て等について」では68を販売管理等と整理している。

(5) 国税庁等における酒類産業行政の運営体制の整備

  1. イ 国税庁においては、これまでの酒税確保を中心とした事務運営から消費者利益の確保及び酒類業の健全な発達のため、酒類行政を広く捉えてその運営体制の一層の整備を進める必要がある。
  2. ロ また、その際、関係各省庁における現在の連絡協調体制を更に充実させ、政府全体での行政運営の機動性、実効性を確保するよう努めるべきである。

次のページへ→